こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

サムサッカー

otello2006-09-28

サムサッカー THUMBSUCKER


ポイント ★★*
DATE 06/6/15
THEATER ソニー
監督 マイク・ミルズ
ナンバー 93
出演 ルー・プッチ/キアヌ・リーブス/ティルダ・ウィンストン/ヴィンセント・ドノフリオ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


がんばりたいのにがんばれない。そんな自分が嫌いなのに自分ではどうにもならない。挙句の果てに自分を心配してくれる人たちに当り散らす。そしてまた自己嫌悪に陥るという悪循環。17歳という子供ではいられない、でも大人にもなりきれない微妙な年齢の少年の心の彷徨を通じて、あるがままの自分を受け入れることを肯定的にとらえる。しかし、「そのままでいいんだよ」という主人公に対する作者の語りかけは、人間的な成長を阻害する甘やかしにしか見えない。


いまだに指しゃぶりがやめられないジャスティンは学校でも家でも集中力が続かずADHDと診断されるが、抗うつ剤服用のおかげで自信に満ち溢れた優等生に変身する。弁論大会で連戦連勝、しかしそれは薬に助けられた偽の自分だと気づく。


抗うつ剤とはこれほどまでに劇的な効果があるものなのか。知覚が鋭敏になるだけでなく、脳の働きもフル回転、更にはポジティブな高揚感まで得られる。それは、コカインと分子構造が3つしか違わないという危うさに支えられている。その事実を知ってジャスティンは抗うつ剤を捨てるが、そこで心を入れ替えるのではなく、今度はマリファナに溺れていく。自分自身の問題すらひとりでは何も解決できないジャスティンのダメ少年ぶりをカメラは丹念に追うが、エピソードは感情の起伏に乏しく転機と呼べるような盛り上がりもない。

結局、ジャスティンは両親や信頼している歯科医といった見た目は立派な大人も、本当は人生に自信を持てずに迷っているということを知り、自分が特別ではないことを理解する。そして、ニューヨーク大学で夢に向かって新たな人生を踏み出そうとするが、未熟さの証明であった指しゃぶりはやめない。いろんなことを経験して少しは進歩したはずなのに、子供のままのメンタリティではこの先が思いやられる。ジャスティンをきちんと「卒業」させてあげないのは、いささか残酷しぎる結末ではないだろうか。


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