こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

地下鉄(メトロ)に乗って

otello2006-10-27

地下鉄(メトロ)に乗って


ポイント ★★
DATE 06/10/26
THEATER 渋谷シネパレス
監督 篠原哲雄
ナンバー 183
出演 堤真一/岡本綾/常盤貴子/大沢たかお
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


地下鉄の出口を出ると、そこは東京オリンピックに沸く40年以上も前の実家の近くだったという驚きと、不仲の父の若い頃の姿を息子が見つめることで、伝えられなかった父の家族に対する思いという発見。お互いよく知っているようで実は理解しあえていなかった父と息子の姿を描くことで、親子の情愛とは何かを問う。しかし、張りぼてとCGで再現した昭和の町並み同様に物語が薄っぺらで、タイムスリップする時代もまちまちでエピソードに一貫性がない。なにより、東京五輪のときに中学生くらいだった主人公は現在なら60歳近いはず。なぜ40歳位にしか見えない堤真一が演じるのか理解に苦しむ。


地下鉄を出ると兄が死んだ日にタイムスリップしていた慎次は、兄を救おうとする。しかし、現代に戻っても何も変わっていない。その話を信じた慎次の恋人・みちこと2人で、今度は敗戦直後の闇市に。そこで慎次は若い頃の父親と出会う。


主人公はタイムトリップを通じて過去を修正するのではなく、多少の干渉はしても基本は父親の人生の傍観者というのがこの物語のポイントだろう。利己的で強欲な独裁者と思い込んでいた父親にも、母を愛し生まれてくる子供を楽しみにする家庭的な一面もあった。満州に取り残された民間人を最後まで守ろうとした男気もあった。そんな、父親の若き姿を見て、自分の知らなかった父の一面を知る慎次。実は頑固で身勝手で愛人を作っているところまで、自分こそ自分が嫌っている父に似ていると気づく過程で父へのわだかまりを解いていく。


しかし、恋人・みちこが実は異母妹たっだというくだりは蛇足だろう。慎次が過去に行くのは父親の遺言とも理解できるが、なぜそこにみちこを巻き込むのか。しかもみちこは自分の出自を知ってしまい、胎児だった頃の自分を殺して自分の存在自体を消してしまうのだ。物語の設定自体がホラ話なのだからこそディテールの積み重ねがリアリティを与えるのに、ファンタジーだから細かいことは気にするなという姿勢ではまともな大人には相手にされないだろう。


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