こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

父親たちの星条旗

otello2006-11-01

父親たちの星条旗 FLAGS OF OUR FATHERS


ポイント ★★★*
DATE 06/10/28
THEATER 109シネマズ港北
監督 クリント・イストウッド
ナンバー 184
出演 ライアン・フィリップ/アダム・ビーチ/ジェシー・ブラッドフォード/
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


英雄を演じることを任務と割り切って務めを果たす者、英雄を演じることで人生を豊かにしようとする者、そして自分たちだけが英雄に祭り上げられた事に疑問を感じる者。第二次大戦末期、国威発揚と戦費調達のために米国政府に利用された3人の若き兵士が戦場で負った心の傷と新たな苦悩、そして一枚の写真によって狂わされた人生を、イーストウッド監督はセンチメンタルに描く。戦争から生還し戦後を生きるのは、時に戦場で命を散らす以上に辛いのだ。


太平洋戦争の激戦地・硫黄島を攻略した米軍は要害の摺鉢山の頂上に星条旗を立てる。その場面がカメラに収められ全米で報道されたことから、国旗を掲げた6人の兵士は英雄とされ、生き残ったドク、レイニー、アイラの3人は本国でPR活動にかり出される。しかし、英雄の写真にはその場にいた者しか知らない秘密があった。


水平線まで埋め尽くすかと思われる大艦隊で硫黄島に上陸する米軍と地下壕に潜む日本の守備隊。日本軍の猛反撃にあって米兵が次々に命を落とすシーンは「プライベート・ライアン」さながらフィルムの彩度を落とし、記憶の中のイメージであることを強調するが、兵士達の腕や首が飛び、銃弾が体をえぐる生々しい痛みは確実に脳裏に焼き付く。戦友が味わった苦痛と死を知っているからこそ、自分たちが英雄としてパーティ三昧のツアーを続けることにドクとアイラは良心を痛める。しかも、旗を立てたのは「やらせ」だった上に、1人の兵士の名前まで入れ替わっている。結局そんな茶番に着いていけなくなったアイラは戦場に戻るが、農家の小作人を経て野垂れ死にしたアイラが戦後にたどった人生こそが、作られた英雄の悲しさを表現している。


比較的恵まれた戦後を送ったドクも、老いてなお硫黄島の夢にさいなまれている。しかしそれは戦場で体験した恐怖からではなく、本来の英雄からその地位を奪ったことへの後悔からなのだろう。だからこそドクは「真の英雄は自分たちではなく戦場で戦った兵士」と強調する。戦場のリアルと戦後の苦悩を対比させることで、戦争がいかに個人の運命を狂わせるかを鮮やかに訴える。ただ、やはり戦場では姿はほとんど見えないが日本兵のほうに感情移入してしまって、米兵に共感できなかった。


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