こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

クリムト

otello2006-11-02

クリムト KLIMT


ポイント ★*
DATE 06/7/13
THEATER メディアボックス
監督 ラウル・ルイス
ナンバー 111
出演 ジョン・マルコヴィッチ/ヴェロニカ・フェレ/サフランバロウズ/ニコライ・キンスキー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


革新的な芸術家が人生の末期に見るヴィジョンはまさしく幻覚。エピソードは脈絡なく飛躍し、その遠心力に映画の求心力は耐え切れずにバランスを失ってしまう。さらに、梅毒菌に侵された主人公の脳細胞同様に自己崩壊を繰り返す映像は理解不能に陥り、精緻に再現された19世紀末ウィーンの絢爛たるカフェやファッションのみがむなしく存在を主張する。クリムトの作品にインスピレーションを得た自由な創造を目指したのだろうが、想像力の臨界点をはるかに超えた構成は見るものをカオスの淵に突き落とす。


1918年、ウィーンの病院で危篤状態になったクリムト。友人のエゴン・シーレが見舞うが、クリムトの心は栄光に彩られた時代をさまよっている。そこでは常にレアという謎の女と書記官と名乗る男がクリムトの行動を制御していた。


クリムトという実在のアーティストの物語なのに、どうして彼の創作の苦悩や美の真髄に迫ろうとしないのだろう。たとえば彼の代表作「接吻」。金箔に彩られ恍惚とした表情で唇を交わす女性像、絵具では描ききれない退廃的な艶かしさを持つこの作品がいかにして生まれたのか。その過程をなぞるだけでも十分にエキサイティングな作品になったはず。ここで描かれるクリムトの人物像は、気難しく身勝手で尊大。裸婦像のモデルに手を出しまくってたくさんの子をなしたという逸話はにわかに信じがたいようなイヤな男だ。


もちろんそれほど古い人ではないのでその人物像はある程度固定され、大胆な解釈は難しい。だからこそ彼の精神面にメスを入れ、本人以外には見えない世界を構築したのだろう。だがその目論見は見事に的を外れ、しばしば自分自身がどこに入るのか見失ってしまう。クリムトの半ば統合失調症気味の精神状態を表現したのかもしれないが、通常の思考力では到底及ばないはるかな高みを飛んでいってしまった。否、見る側に問題があるのではなく、やはり映画自体がつまらないのだ。


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