ナチョ・リブレ 覆面の神様 NACHO LIBRE
ポイント ★*
DATE 06/9/26
THEATER UIP
監督 ジャレッド・ヘス
ナンバー 162
出演 ジャック・ブラック/ヘクター・ヒメネス/セサール・ゴンザレス/アナ・デ・ラ・レグエラ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
あくまでも格闘ショーとして観客を楽しませることが目的のメキシカンプロレス=ルチャ・リブレ。レスラーたちはファイターというよりエンタテナーで、勝ち方にも負け方にも独特の美学や個性がなければいけない。この作品もアートフィルムではなく娯楽映画のはず。しかし、観客を楽しませようとすればするほどユーモアのセンスは理解を超え、ジャック・ブラックの孤軍奮闘もむなしく空転する。一応コメディという位置づけなのだろうが、笑いのツボをことごとくはずしている。
孤児院の調理係・イグナシオは少ない予算で子供たちにまともな物を食べさせようとやりくりしているが、粗末な物しか作れない。ある日、ルチャ・リブレで賞金を稼ぐことを思いつき、ストリートファイトで知り合ったスティーブンと共に参戦する。
そもそもキャラクターの設定が曖昧で、主人公のイグナシオがどういう男なのかよく分らない。クソまじめに生きようとするあまりその不器用さで笑いを取るのか、不真面目な男が美しい修道女の気を引くために頑張るのか。ダメ男の一念発起というのは「スクール・オブ・ロック」に通じるところがあるが、この作品ではルチャ・リブレに命を賭けようとする覚悟が希薄で、切迫感に乏しい。そのあたり主人公の性格づけをジャック・ブラック自身もきちんと理解していないように思える。
試合のシーンは本物のレスラーを使っているのでそれなりに見ごたえはあった。特に原始人の格好をした小人レスラーコンビのスピード溢れる動きは、まさに「ルチャ・リブレ」。ねずみのように走り回り、猫のように飛びかかる。ロープの弾力を最大限利用してリングを立体的に使い自分の体格の倍もあるレスラーを切りきり舞いさせる姿こそ、抑圧された民衆の自由への戦いに重なるものを感じる。彼らのほうが主人公よりよほど魅力的だった。