こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

椿山課長の七日間

otello2006-11-20

椿山課長の七日間


ポイント ★★
DATE 06/9/22
THEATER 映画美学校
監督 河野圭太
ナンバー 159
出演 西田敏行/伊東美咲/成宮寛貴/和久井映見
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


妻、息子、友人、同僚。生きているときには分らなかった彼らのホンネを死んでから知ることになる男。悪意を抱いているわけではなく、誰もが彼のことを思い、男もまた彼らのことを思っている。そんな中で伝えられなかった思いが交錯し、かなえられなかった願いがかなえられる。しかし、その表現法は泥臭いまでに感情に訴えようとするあまり、逆効果。観客の涙腺を刺激しようとする仕掛けがあざとすぎ、過剰な演出が輪をかけるという、テレビ出身の監督が陥る悪癖が最後まで修正されることはなかった。


デパート店員の椿山課長は勤務中に突然死。この世でやり残したことを清算するために、やくざの親分や少年と共に3日間の猶予でこの世に戻る。椿山に与えられた肉体は生前とは似ても似つかぬ美女、他の2人も青年と少女に変えられていた。


オッサンの魂がスレンダー美女の体を持つというギャップがポイントなのに、伊東美咲にはその演技力も覚悟もない。オッサン特有の下品な癖、たとえば人前でも平気で爪楊枝を使ったり、喫茶店のおしぼりで顔を拭ったり、屁をこいたり。彼女が清純派イメージをかなぐり捨てるような仕草を見せていれば、もっと作品に血肉を与えられただろう。そして、彼女の表現力不足を補うかのような西田敏行の独白。わざわざ心情を吐露させなくても、表情でその気持ちを観客に伝えるのがプロの俳優だ。伊東美咲を甘やかしすぎて作品のクオリティを下げている。


結局、椿山は妻の浮気や息子の秘密などを知りショックを受けるが、自分もまた本当に好きだった女に気持ちを送ることができる。他の2人も過去を清算し無事天国に向かう。それぞれに胸を熱くするシーンは用意されているのだが、そこに至るまでの過程は説得力が希薄でご都合主義丸出しだ。まあこれは天国への案内人役が仕組んだことと解釈もできるが、最後に椿山が父親と出会うことには納得行かない。天国への中継所に来るのは死後4日目のはず。ディテールの積み重ねがファンタジーにリアリティを与えることを、監督・脚本家はもう少し学んでほしい。映画の客はテレビの視聴者よりずっと集中して物語を追っていることを知るべきだ。


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