こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

麦の穂をゆらす風

otello2006-11-24

麦の穂をゆらす風 THE WIND THAT SHAKES THE BARLEY


ポイント ★★★*
DATE 06/11/21
THEATER シネアミューズ
監督 ケン・ローチ
ナンバー 202
出演 キリアン・マーフィ/ポードリック・ディレーニー/リーアム・カニンガム/オーラ・フィッツジェラルド
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


外国の支配からの独立、そして独立後の主導権を争っての内戦。大昔から現在まで、世界中のどこかで繰り返されている血で血を洗う抗争は、それぞれの派閥が大義を唱え、敵対勢力を排除しようとする。そこには正義などなく、ただ勝った者だけが正義を名乗る資格を持つ。ケン・ローチ監督は、歴史には決して残らない敗れて死んでいった者たちの視線を通じて、戦争には決してヒーローなど存在しないことをリアルに描く。愛するものをやむをえず殺さなければならない、勝った者もそんな哀しい思いを胸に秘めている。正義を達成するには、敵の血だけではなく自分の血を流し、心を鬼にしなければならない。その責任はひとりの人間が背負うには重すぎるのだ。


1920年、英国圧政下のアイルランドでは独立運動が高まり、各地でゲリラ戦が起きている。兄・テディと共に解放軍に身を投じた医師の卵・デミアンは次第に闘士としての頭角を現す。しかし、英国軍撤退後、解放軍は方針の違いから分裂し兄弟は袂を分かつ。


自由と平等など、絵に描いたモチに過ぎない。多くの人間が集まり、社会を形成する以上、優秀なもの・強い者は富み、そうでない者との階級差ができるのは当然。支配階層を温存し自治を勝ち取ったことで目的を達成したと思うテディは、裁判で金持ちを擁護したことで理想より現実を選び、デミアンは完全な独立と弱者が搾取されない理想的な体制を目指す。


結局デミアンは捕らえられ、テディの手で処刑される。暴力の連鎖、それは憎しみしか生まず、時に愛する者同士でさえ引き裂く。それでも人間は殺し合いを止めない。平和や秩序、人間が安心して暮らしていけるシステムは、多くの命の犠牲の上で成り立っている。きれいごとではないその事実を緑多い大地を背景に鮮やかに切り取る映像はどこまでも哀しく、愛する人と故郷のために銃を取った人々を歌った主題歌はいつまでも耳に残る。


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