こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

トゥモロー・ワールド

otello2006-11-27

トゥモロー・ワールド CHILDREN OF MEN


ポイント ★★
DATE 06/11/18
THEATER ワーナーマイカルつきみ野
監督 アルフォンソ・キュアロン
ナンバー 199
出演 クライブ・オーウェン/ジュリアン・ムーア/マイケル・ケイン/キウェテル・イジョフォー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


なぜ人類に子供が生まれなくなったのか。なぜ少女だけが妊娠できたのか。映画は種としての退化現象に答えてくれない。そのかわり、主人公が直面するのは大量の難民問題と、彼らを高圧的な管理下におこうとする正規軍とレジスタンス組織の市街戦。戦場さながら銃弾や砲弾が飛び交い、血が流れる中を主人公は少女と赤ちゃんを脱出させるべく奮闘する。人類に残された最後の希望と呼ぶにはあまりにもはかなく小さな命。ただ、不妊の原因を最後まで詳らかにしないままでは、この希望の種火もやがて消えてしまう。映画はそこまできちんと説明すべきだ。


2027年、人類には18年もの間子供が生まれず、すでに世界は英国を除いて崩壊している。役人のセオはかつての妻・ジュリアンに妊娠した少女・キーの通行証を手に入れるよう頼まれる。ジュリアンは地下組織のリーダーとして、子供を守ろうとしていた。


当局の厳重な監視体制によってもたらされる民主主義の危機。さらに自由を制限するための当局側による自作自演の爆弾テロ。治安を守るという名目で市民の自由はどんどん制限され、移民たちは徹底的に排除される。そう、この映画は体制側が強大な権力で市民の自由を脅かす社会の恐ろしさを描いているのだ。権力の監視を怠ると、どんな国にでも起き得る悲劇。映画は人類滅亡の危機という名目を借りて、世界的な右傾化傾向に警鐘を鳴らす。


一方、反政府組織内でも主導権をめぐって陰謀がめぐらされ、ジュリアンが殺され、キーを保護するセオも追われる身となる。かつて子供を死なせた過去があるセオは少女と赤ちゃんだけは守ろうと、命をかけて彼女たちの脱出に手を貸す。ラスト、濃霧の海で待つセオと少女、赤ちゃんの前に「TOMORROW」という名の貨物船が救助に現れる。しかし、その果てに何があるのか。わずかな希望の糸だけはつながったが、その行く先は限りなく心もとない。見ているものは、いつまでも霧の晴れない海で待たされている気分だった。


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