こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

カジノ・ロワイヤル

otello2006-12-04

カジノ・ロワイヤル CASINO ROYALE


ポイント ★★★★
DATE 06/12/1
THEATER 109シネマズ港北
監督 マーティン・キャンベル
ナンバー 210
出演 ダニエル・クレイグ/エヴァ・グリーン/マッツ・ミケルセン/ジャンカルロ・ジャンニーニ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


走る、跳ぶ、殴る、蹴る。銃器の使用より肉体を酷使する。傷だらけになり、血を流し、毒を盛られれば危篤状態に陥る。いくら強靭でも、あくまで人間の能力を超えないリアルさにこだわったアクションは皮膚感覚の痛みを伴う。戦うべき相手もテロリストの資金を運用する投資家で、奪い合うのもカネというなまなましさ。新しい007は荒唐無稽さを極力排除し、生身の人間が限界に挑む姿を描く。それは身体能力だけでなく頭脳や心まで含み、明晰な洞察力と暖かい心遣いは007の魅力を一段と引き出している。


テロリストの活動資金の流れを握る投資家・ル・シッフルはボンドに計画を阻まれ、損を取り返すためにカジノに現れる。ル・シッフルを追うボンドは、ポーカーで彼に挑み全財産を巻き上げるが、パートナーのヴェスパーを誘拐されてしまう。


裏切りと欺瞞が入り乱れ、上司のM以外の人間は誰を信用していいのか。ボンドは敵だけでなく、味方と思っている人間にも常に寝首をかかれる危険と背中合わせ。そんな中で唯一心を休めることができるのはヴェスパーとのひとときだ。初めて殺人を目の当たりにしてシャワーで震えているヴェスパーの横に並んで座り彼女を慰めてやるボンドの姿に、強いだけではなく大切なときにそばにいて安心させてくれる男の優しさを女は一番必要としていることを物語る。ニューボンドのキャラクターを決定付ける一番印象的なシーンだった。


結局、ル・シッフルすらも中継点に過ぎず、ボンドは彼から巻き上げたカネを更なる黒幕に強奪されたうえ、ヴェスパーすら失う。それまで人妻との火遊びにしか興味がなかったボンドが、はじめて真剣に愛した女性を失った挙句の失態。そして愛を捨てて効率的な殺人マシーンになる。それこそが007を名乗る資格なのだ。ラストシーン、ボンドはあまりにも簡単に黒幕を殺してしまうが、この場面に込められたボンドの決意は、情報員としては進歩だが人間としての感情を捨てることを意味する。ただそれが、ボンドの魅力も同時に捨てるようで、少し心配だ。


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