こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

長い散歩

otello2006-12-17

長い散歩


ポイント ★★★*
DATE 06/11/9
THEATER メディアボックス
監督 奥田瑛二
ナンバー 192
出演 緒方拳/高岡早紀/杉浦花菜/松田翔太
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


後悔を吹っ切りたい男と思い出にすがりつく女の子の過去に対する気持ちが対照的だ。男は家族を愛してやれなかった。女の子は母親に愛されなかった。それでもせめて彼女だけでも救おうと、男は残り少な自分の未来を彼女に託す。自分のせいで妻に先立たれ娘に断絶された記憶に今もさいなまれる男に対して、女の子は唯一楽しかった思い出である天使の羽を決してはずそうとしない。老人と幼女、2人の道行きは決して暗いものではなく、行く先に希望がつながっているところが清清しい。


元教師の安田は妻の死後娘に絶縁され、アパート1人暮らしを始めるが、隣室の小さな女の子・さちが母親から虐待を受けているの見て心を痛めている。ある日、母親のヒモがさちに暴力を振るったことから彼女を連れ出して旅に出る。しかし、母親が捜索願いを出したことから、安田は誘拐犯として警察に追われる。


緒方拳扮する安田の凛としたたたずまいが映画に喝を入れる。70に手が届く年齢なのに体を鍛えなおし、背筋を伸ばし竹棒を振る姿はとても老人とは思えない。それは親の愛情を知らずに育った子供を守るためには必要なこと。一方で安田自身、家族を愛してやれなかった後悔からさちを救うことに贖罪を見出す。名前を聞かれて「ガキ」と答えたさちが、やがて安田から愛されることを学び心を開いていく過程が痛々しいほどリアルだ。そして母親の暴力から身を守るために心を閉ざしていたさちが、旅の若者と知り合って初めて笑顔を見せるシーンに、彼女の悲惨な人生が凝縮されていた。


老人と子供のロードムービーに児童虐待・育児放棄という今日的な問題を取り入れたところが成功の鍵だ。そして命すら脅かされている幼女を救おうとすると、今度は誘拐犯として追われるという皮肉。厳格な生き方を通してきた安田にとって、法を犯すのは勇気がいっただろう。それでも自分の生き方の対する反省と彼女を救えるのは自分しかいないという使命感が安田を衝き動かす。ラスト、あらゆる罪を清算した安田の表情はどこまでも晴れやかで、見るものを安心感で包み込む。


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