こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

酒井家のしあわせ

otello2007-01-03

酒井家のしあわせ


ポイント ★★★*
DATE 06/11/29
THEATER メディアボックス
監督 呉美保
ナンバー 208
出演 森田直幸/友近/鍋本凪々美/ユースケ・サンタマリア
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


両親に愛された記憶はあるけれど、反抗したり、逆に甘えられたりした経験のないままに父親になった男。家族との距離感がうまくつかめず、家族に甘えることは迷惑をかけることと思い込む。そんな優しすぎる父親に、血のつながらない息子は必死で自分の気持ちを伝えようとする。思春期の息子が親に対して持つ複雑な感情や、友人・異性に対する不器用な付き合い方が、取れたての野菜のようなみずみずしさで再現され、平凡な中学生のリアルな現在が描かれる。そして、適度にちりばめた会話の端々から溢れるユーモアが、映画にあたたかさを持たせてくれる。


次雄は父・正和、母・照美、妹と暮らす中学生。照美は事故で前夫と次雄の兄を失っての再婚という複雑な事情がありながらも、家族は仲良くやっている。そんなある日、正和が「好きな男ができた」といって家を出る。


中学生の少年にとって、父親とはつきあいにく存在。父親から見ても息子が何を考えているかは分らない。照美の実家で照美の親兄弟がケンカをしているのを見た正和が思わず笑い転げてしまうシーンで、正和が背負ってきた家族とうまくかかわれずずっと抱いてきた違和感が爆発する。若いときに両親と死に別れた正和にとって、ケンカできる家族がいるだけ幸せなのだ。だからこそ正和は愛する家族を大切に守ろうとする。しかし、その方法はあまりにも子供じみている。


結局、正和は余命わずかの病気で、照美に二度も夫に死に別れをさせたくないという気遣いで家を出たということ。そんなこと、照美はとっくに気づいている。照美に苦労をかけたくないとウソをつく正和、正和が自分にそんな気遣いをしていることに腹を立てウソだとわかっていても知らぬフリをする照美。愛しているが故の哀しい喜劇。でも、家族というものはもっと甘えあって助け合って、そして支えあっていくものだということをこの映画のラストシーンは教えてくれる。


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