こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

子宮の記憶

otello2007-01-16

子宮の記憶


ポイント ★★
DATE 06/12/6
THEATER メディアボックス
監督 若松節朗
ナンバー 213
出演 松雪泰子/柄本佑/野村佑香/余貴美子
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


母親に愛されたという記憶、それは生まれたての赤ちゃんの脳にも刻み込まれている。どんなに短い間でも、意識の奥に封印されたその思い出はその後の人格形成に大きな影響を及ぼす。そしてその封印を解いたとき、愛してくれた母への思いは奔流のようにあふれ出し青春のエネルギーとなって暴走する。そんな青年を止められるのは母親だけだが、彼女とは血のつながりはない。映画は、高校3年という子供ではないが大人にもなりきれない青年と、生活に追われて決して幸福とはいえない中年女性の、愛という真実を求めさまよう心の揺れを描くのだが、感情の起伏に乏しく物語が平板だ。


母親の偽善的な態度に反抗して家出した真人は、沖縄のビーチにある食堂でバイトを始める。実はその食堂をひとりで切り盛りする愛子は、かつて生まれたばかりの真人を誘拐した女だった。真人はその事実を隠して愛子に本当の母親の姿を求めていく。


誘拐犯として服役し、沖縄にまで流れてきた愛子。暴力的な夫と反抗的な継娘の悪態に日々耐えている。おそらく彼女はもう子供を産めない体なのだろう。誘拐した赤ちゃんと過ごした幸せな思い出だけを糧に、前科者としての罰を受けながら生きている。薄幸の中で自分を抑えながら黙々と運命を受け入れている愛子を演じる松雪泰子のやつれた面差しが切ないほどにセクシー。若い真人の出現を戸惑いながらも受け入れる繊細さが、この作品に緊張を与えている。


反対に真人は一見人当たりはいいが、他人に本心を決して明かさないタイプと飲み屋の女将に喝破される。真人のこの感情の抑え方が過剰で、何を考え何を感じているのかよく分らない。悪意はなく、愛に餓えているのはよく分る。ただそれがどこかで腹に一物を秘めているような不気味さにつながる。そもそも愛子に会うことで何を期待していたのだろう。愛された記憶を再確認するだけなのだろうか。愛子の置かれている現状を知って助け出したかったのだろうか。いずれにせよ愛子に会いに行ったことで、愛子を救い生きる希望を与えたことは確かだが、真人のほうはあれで気持ちの整理はついたのだろうか。高校生の大人への通過儀礼というにはあまりにもセンチメンタルすぎる。


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