こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

マリー・アントワネット

otello2007-01-21

マリー・アントワネット MARIE ANTOINETTE


ポイント ★★
DATE 06/11/1
THEATER 東宝東和
監督 ソフィア・コッポラ
ナンバー 186
出演 キルスティン・ダンスト/ジェイソン・シュワルツマン/アーシア・アルジェント/マリアンヌ・フェイスフル
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


贅を尽くした調度品に囲まれ、色鮮やかなシルクを惜しげもなく使った最新モードと無数の靴に身を包み、アートのようにデコレートされたスイーツをつまむ。身の回りの世話は侍女に任せ、言い寄る男と恋の駆け引きに身をやつす。まさに世界中の女子が夢見るようなプリンセスの生活。映画はマリー・アントワネットの生きた時代を語ることにまったく興味を示さず、ひたすら彼女の浪費と恋を追う。国庫を気にすることのないその姿はあくまで明るく積極的で、現代の若い女性の願望を体現しているようだ。


オーストリア皇女・マリーはフランス王家に嫁ぐが、王太子との間にはなかなか子供ができない。そんな折、先王が急死し、彼女の夫がルイ16世として玉座につく。やっと子供ができたマリーはプチ・トリアノン離宮で暮らすようになるが、フェルゼンというスウェーデン軍人と恋に落ちる。


仏宮廷の寝室でのしきたり、ゴシップと陰口ばかりが飛び交う晩餐、そんななかで着せ替え人形のようにマリーが着飾るファッションと口にする菓子のゴージャスさには圧倒される。しかし、そうしたディテールにこだわるあまり、肝心のマリーの心はおろそか。セックスレスから買い物依存症になる寂しさや、フェルゼンと出会ったことで体験する恋のときめきをどうしてもっと描かないのだろう。そのあたり現代風のポップな音楽を映像にかぶせることで、マリーを「人生を精一杯楽しむ今風ギャル」に見たてているが、見事にはずしている。別にバロック音楽を使えとは言わないが、この選曲のセンスの悪さは致命的だ。


やがて子供2人に先立たれた上、革命の嵐の中、失意のうちにマリーはヴェルサイユ宮殿を後にする。本来、後半生のほうが激動なのに、映画は駆け足で走り去る。唯一、オペラ鑑賞中、拍手をするマリーを他の客が白眼視するシーンで、仏民衆が彼女に対して持っていた感情を端的に表現するが、この時までマリーは民衆の心に気が付かなかったということか。マリーを悲劇の王妃ではなく究極のセレブという視点で捉えるのは新鮮だが、大人の鑑賞者を満足させるレベルではなかった。


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