こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

幸福な食卓

otello2007-01-30

幸福な食卓

ポイント ★★★
DATE 06/12/12
THEATER 松竹
監督 小松隆志
ナンバー 217
出演 北乃きい/勝地涼/平岡祐太/さくら
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ティーンエイジャーの身の回りに起きる出来事は、転校生、高校受験、初恋など、誰でも経験するような普通の事件なのに、ただもう戻らない青春の一コマと思うと懐かしさを覚える。一方でヒロインの家では両親も兄も人生の意義を見失い、奇妙な緊張感の上でかろうじてバランスを保っている。学校生活と家庭生活、生真面目ながらも物分りのよい性格の彼女にとって、心を正常に保つのは相当の努力が必要だろう。泣きたいのに涙を流せない、そんな自分に厳しい女子高生をついつい見守りたくなる。


中3の佐和子は転校してきた大浦と仲良くなり、共に同じ高校の進学を目指す。一方、佐和子の家では父親が義務を放棄して受験勉強中。翌春、佐和子と大浦は高校に合格するが父は不合格になる。佐和子と大浦は付き合い始め、父は予備校講師の職を得る。


きれいに片付いた家の中、きちんと手が加えられた料理、家庭を守ることに情熱を傾けていた母親がいなくなった後の家事は誰がやっていたのだろう。母は家出、父は自殺未遂、兄はドロップアウトと、まじめな学生である佐和子を除いて家族の構成員がそれぞれ自分の義務を放棄し、家族は崩壊しているのに家はきちんと維持されている。家族の物語が繰り広げられる舞台なのに、そこはモデルルームのように生活感がないのだ。一方で大浦のテンションの高さには閉口するが、佐和子の学園生活はとてもまぶしい。佐和子が合唱の指揮をしても誰もついてこないのに、大浦の入れ知恵でうまく行くシーンなど高校生の感性がとてもリアル。ボーイフレンドと一緒にいるだけで幸せになれる、大人びた優等生の佐和子が一瞬見せるほころんだ口元に、そんな少女の気持ちがとても初々しく表現される。


ただ、最近の日本映画の青春ドラマの悪弊なのか、この映画も恋人を死なせて物語に決着をつけてしまう。喪失感にさいなまれている佐和子の元に大浦が生前書いた手紙が届くという使い古されたオチまでついて。バラバラの家族を描くことですでに純愛など幻影にすぎないと言っているはずなのに、佐和子と大浦の愛は肯定する。人生のアンバランスさを受け入れて前に進もうとする佐和子の笑顔がまぶしかった。


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