こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

どろろ

otello2007-01-31

どろろ


ポイント ★★★
DATE 07/1/27
THEATER 109グランベリーモール
監督 塩田明彦
ナンバー 18
出演 妻夫木聡/柴咲コウ/中井貴一/原田美枝子
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


コントラストを強調した映像が魑魅魍魎が跳梁跋扈する作品世界を見事に表現し、まがまがしい原色が登場人物のキャラクターを際立たせる。人間の欲に付け込む魔物と怨念に取り付かれた人間に、時に行く手をさえぎられ時に助けられながら、失われた自らのアイデンティティを探す主人公。体は偽物でも心と思考は自分のものという特異な状態で続ける旅は、一方で魔力を失う過程でもある。魔物として生きながらえるより、人間として短い人生を全うしたい。そんな心の叫びが痛切だ。


父親の野望の犠牲で肉体の48ヵ所を魔物に取られた百鬼丸は、呪医師に拾われて失った肉体を死人の体で補われる。成長した百鬼丸は自分の肉体を取り戻すために48の魔物退治の旅に出る。その間、どろろという盗賊と出会い、道行を共にする。


まだほとんど人工体の百鬼丸はまるでゾンビのようだが、やがて目や心臓、声帯を取り戻してからは徐々に人間らしい表情を取り戻し、感情も手に入れる。それは同時に不死身の肉体から痛みを感じる人間の体に戻るということ。蜘蛛女と戦ったときはどんなに攻撃を受けても一切痛痒もなく傷もすぐにふさがったのに、後に取り戻した右腕に噛み付かれると激痛を感じるようになる。しかし、痛みや苦しみの先に喜びや快楽があり、それこそが人間として生きる意味であることを、百鬼丸は子を食らう魔物を倒したときに学んでいる。ただ、彼の本来持つ性格がもっとぶっ飛んだものだったらその変化が楽しめたのに、あくまで海を見て感動する程度と控えめなのが残念だ。


結局、百鬼丸どろろの両親の敵でもある自分の父親と再会するが、そこでも心の迷いを見せる。一応、父親が死んだ後、領地を相続するように弟にせがまれるが、残りの体を取り戻す旅に復帰する。そのエンディングには達成感もカタルシスもなく、棚上げされたどろろの立場のような中途半端さが残るだけだ。プロローグから中盤までは目を話せない展開だったのに、尻すぼみな感じは否めない。


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