こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

世界最速のインディアン

otello2007-02-07

世界最速のインディアン THE WORLD'S FASTEST INDIAN


ポイント ★★★*
DATE 06/11/30
THEATER ソニー
監督 ロジャー・ドナルドソン
ナンバー 209
出演 アンソニー・ホプキンス/ダイアン・ラッド/ポール・ロドリゲス/アーロン・マーフィ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


年老いてなお夢をあきらめず、スピードの限界に挑戦する。しかし、その過程は高いハードルをクリアしていくというものではなく、あくまで目標を自分に引き寄せるかのようにゆったりとしている。もはや失うものは何もなく、失って困るのは情熱だけ。シワだらけの見かけでも心は18歳と言い切る冒険心に満ちた老ライダーをアンソニー・ホプキンスが好演。行く先々で見知らぬ人々の心にすっと入り込み、いつしか自分の味方にしてしまう主人公の瞳は、人懐こさと底知れぬ魅力を湛えている。


ニュージーランドの片田舎で40年前の改造バイクに乗るバートの夢は、米国・ユタ州の平原で開かれるスピード記録会に出場すること。友人たちの援助で渡米したバートは様々な人々の善意に助けられて会場にたどり着く。


どんな困難にもくじけず不可能を可能にする。しかしそれは強靭な意志というより、なんとなく周囲の人間を納得させてしまうという人柄による。他人を疑わず自分から心を開く、そんなバートの流儀がいつしか他人の警戒心を解いてしまうのだ。映画はスピードの世界に生きるバートより、旅の途中で知り合った人との交流を中心に描き、心温まるロードムービーの趣になる。悪意を持った人間をひとりも登場させず、誰もがいつしかバートを応援するようになる。そんな人間の優しさが身にしみる。レース会場でバートが寄付金をもらうシーンなど、彼が何を必要としているかを周りの人間がきちんと汲み取っているところがうれしい。


やがて会場にたどり着いたバートは参加資格がないことを知らされるが、ここでも協力者を得て無事レースに挑む。魚雷のような外装を施した彼のバイクはひたすら地平線に向けて加速する。その流線型は官能的に美しく、めくるめく疾走感はアドレナリンよりエンドルフィンの分泌を促し、うっとりとした多幸感に浸ることができる。軽妙な人情話と時速200マイルの体感が見事に調和した語り口は、人生に何が一番大切かを教えてくれた。


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