こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ユメ十夜

otello2007-02-09

ユメ十夜


ポイント ★★
DATE 06/12/21
THEATER メディアボックス
監督 実相時昭雄/市川昆/清水崇/清水厚/豊島圭介/松尾スズキ/天野喜孝/山下敦弘/西川美和/山口雄大/
ナンバー 224
出演 ///
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


夢という、潜在意識下に潜む不条理なものを映像にする試みは、おのずと作家の想像力がどれだけのキャパシティを持つかを量るものさしとなる。色彩を落としたり形をデフォルメしたり時間をねじ曲げたりと、まさに表現形態は何でもありの上、ストーリーに整合性を持たせる必要もない。だからこそ、そこで監督の自己満足で終わるか観客が見て面白いかが作品の価値の分かれ目。やはり映像作家というのは生真面目なのだろう。何とか夏目漱石の世界を再現しよううともがくが、解釈があまりにもストレートで、観客は退屈な悪夢を見せられているような気分になる。


10本の短編からなる漱石の原作「夢十夜」の映画化だが、第一夜から五夜まではうんざりするほど退屈。こちらが眠ってしまいそうになる。七夜から九夜もとくに見るべきところもなく、あくびとため息しか出ない。


しかし、松尾スズキが監督する第六夜はそれまでの停滞を一気に吹き飛ばす大傑作。運慶が仁王の頭を彫る現場を群集が見守るのだが、運慶は目の前の大きな木の周りをひたすら踊る。雄雄しさと激しさ、その肉体から発散される感情はまさしく怒りに口をゆがめる仁王のよう。運慶役のTOZAWAというダンサーは体のあらゆる関節を意のままに操り、あるときは機械のような正確さ、あるときは軟体動物のようなしなやかさ。デジタルとアナログが融合したようなアニメーションダンスには思わず身を乗り出す。


第十夜の豚丼の厨房に迷い込む美男子のエピソードも楽しい。ブスに生きる権利がないと思っている男が豚丼のうまさにはまるが、ブス=豚で、今まで殺してきたブスの恨みが豚の形となって復讐に現れる。ブスは殺してもいい、そんな監督のわかりやすい理屈は爽快。女性蔑視などとバカなことをいう出すやつがいても「これは夢ですから」と言い逃れができるし。結局、「自分の器以上のものは作れない」という第六夜のセリフが、この作品全体にも当てはまっている。


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