こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

孔雀

otello2007-02-22

孔雀


ポイント ★★
DATE 06/11/22
THEATER シネマート
監督 クー・チャンウェイ
ナンバー 203
出演 チャン・チンユー/ファン・リー/ルゥ・ユウライ/フアン・メイイン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


小さな地方都市に生きる5人家族の日常というのは分るのだが、登場人物の心情を描きこむには踏み込みが足らず、かといって淡々とした映像の中での人間の変わらない営みを追うわけでもない。あらゆるエピソードが散漫で、いつも食卓を一緒に囲んでいた家族が一度はバラバラになるが、やがてまた一緒になるという、家族という分かちがたい血のつながりを強調するのでもない。生活の匂いが漂うような細密な映像には目を見張るが、いったい何を主張したかったのだろうか。


鶴陽という小さな街に住む娘・ウェイホンは気ままな性格で、仕事にも身が入らない。ある日、落下傘部隊の将校に恋をし、自ら部隊に志願するが拒否されて拒食症になる。ウェイホンの兄・ウェイクオは軽度の知的障害を持つが、農村の娘と結婚して屋台の商売を始める。弟のウェイチャンは閉塞感から街を飛び出すが、年上の女と帰ってくる。


毛沢東亡き後の中国、文革の息苦しさから解放されたが、相変わらず貧しい。そんな時代でも親が子を思う気持ちは変わらない。3人の子が皆、知能や性格、行動に問題がある両親の気持ちはいかばかりか。特に母親は長兄の恋から娘の仕事まで細々と世話を焼く。しかし、子供たちはそんな母の気苦労を知らず、面倒をかけるばかり。特に兄を負担に感じた妹弟が毒を飲まそうとしたことを知った母が、何も言わずにアヒルに同じ毒を飲ませて苦しみ死んで行くところを見せるシーンは圧倒的な説得力。母の無言の怒りが激しい波となって妹弟を飲み込んでしまう。


登場人物の心象風景なのか具体的行為の婉曲表現なのか、たびたびメタファーが挿入される。その意味するものが散文的な物語としっくりと調和せず、ぎこちない印象しか与えない。たとえば森でパンツを下ろすウェイホンの横で男が猟銃を撃つ。それは性交を意味するのだが、だからといってこのシーンがなんらかの伏線として生きているのだろうか。もっと脚本の段階で緻密な構成を考えて、プロットの積み重ねが大きなうねりとなるような展開にするべきだろう。思いつきのようなシーンをただ羅列しても、映画としては退屈なだけだ。


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