こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

サン・ジャックへの道

otello2007-03-12

サン・ジャックへの道 SAINT JACQUES LA MECQUE

ポイント ★★★*
DATE 07/1/11
THEATER メディアボックス
監督 コリーヌ・セロー
ナンバー 5
出演 ミュリエル・ロバン/アルチュス・パンゲルン/ジャン・ピエール・ダルッサン/パスカル・レジティミュス
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


1500キロ離れた目的地に向かってただひたすら山道を歩く。頼りになるのは自分の体力のみ。必要最低限の荷物以外は旅路の足を引っ張るだけだ。背負っている重荷を捨てて旅を続けることで人生に本当に必要なものは何かということに気づく。健康な体と人を思いやる気持ち、食べるものと寝るところ。連日、朝から晩まで歩き続けることで、参加した大人たちは過去を振り返り、若者たちは未来を夢見る。物質的な豊かさがなくても人生捨てたものではないということを、このスローライフ映画は教えてくれる。


母の遺言でスペインの聖地を巡礼することになったピエール、クララ、クロードの3兄妹。互いに口も利かないほど険悪だった3人、謎の女性・マチルドに4人の若者とガイドのギイという9人の一行はサン・ティアゴを目指すが、みな自分のことばかり考えてトラブルばかり発生する。


自分勝手な3兄妹、特に仕事中毒でケータイを手放せないピエールが徐々に人間の自然な姿に変っていくところがほほえましい。持病の薬を飲み忘れ、いつの間にか薬なしでも歩き続けられる健康を取り戻すだけでなく、差別主義者から旅の仲間を守ろうとまでする。毎日同じ顔ぶれで、肉体が疲れ果てるまで歩くという共通体験をすることで友情が芽生え、他人に対する優しさを取り戻す。旅は若者を成長させるだけでなく、大人を成熟させるのだ。


そして、目的地についた後、3兄妹は再び子供時代のような無邪気な関係に戻る。仲直りさせること、それこそが母の遺志だった。そして人間はいくつになっても、その気さえあれば変わることができるということを訴える。その一方で、最初から何の装備も持たずに手ぶらで参加したアル中のクロードの無責任さは、何も変わらない。心の棘は取り除けるが、もともとドロップアウトしている人間のやる気までは引き出せない。そのあたりの押し付けがましさがなく、さわやかな印象を残してくれる。


↓メルマガ登録はこちらから↓