こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

フランシスコの2人の息子

otello2007-03-23

フランシスコの2人の息子


ポイント ★★*
DATE 07/3/19
THEATER シャンテ・シネ
監督 ブレノ・シウヴェイラ
ナンバー 54
出演 アンジェロ・アントニオ/ジラ・パエス/ダブリオ・モレイラ/マルコス・エンヒケ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


貧しいながらも家族を第一に考える父親、7人の子を育てる母親、弟たちを思いやる兄。失われた大家族主義が今も色濃く残るブラジルの農村、父親は息子たちを何とか貧困から脱出させようと、楽器を与え教育を施そうとする。そこに描かれる家族愛は深く強く、ここまで濃い関係を続けられるブラジル人のメンタリティには正直暑苦しさを感じる。助け合い、頼りあうのはすばらしいことだが、もうすこし個というものを確立すべきではないだろうか。


小作人のフランシスコは7人の子持ち。長兄のミロズマルと次兄のエミヴァルにギターとアコーディオンを買い与え、ミュージシャンにするべくトレーニングを続ける。地代を払えず小さなあばら家に引っ越した一家だったが、ある日2人が生活費の足しにとバスターミナルでライブを開くと、音楽プロデューサーが声をかけてくる。


ブラジルポップス界スター・ゼゼの生い立ちから現在までのサクセスストーリーなのだが、彼の熱狂的なファンに向けて作られた作品なのだろう、彼の半生はおそらくブラジル人には知れ渡っていてそれを追体験するための映画となっている。だからこそフランシスコという奇矯な父親の行為も、狭いあばら家で9人家族が片寄せあって暮らすのも、サンパウロでの挫折もそれほど深刻にはならない。唯一、巡業先でエミヴァルが事故死したときだけは、子を失った父と母の慟哭が胸を衝く。


また、彼らが歌う曲はメロディが耳に優しく、愛を高らかに謳う歌詞も恋する男の気持ちをリアルに表現する。しかし、ミロズマルがその曲想をどうやって得て、どんな体験を歌詞にしたのかをきちんと描くべきだろう。強烈な愛や悲しみ、そしてそれらを乗り越えて愛を貫いたからこそブラジル人にあまねく愛される名曲が生まれたはず。その誕生秘話を物語の核に据えてもっと波乱のある構成にしないと、ミロズマル一家のことを知らない非ブラジル人はスクリーンへの集中力が保てない。


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