こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

約束の旅路

otello2007-03-28

約束の旅路 VA,VIS ET DEVIENS

ポイント ★★★
DATE 07/3/23
THEATER 岩波ホール
監督 ラデュ・ミヘイレアニュ
ナンバー 57
出演 ロシュ・ディ・ゼム/ヤエル・アベカシス/モシェ・アガザイ/シラク・M・サバハ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


難民キャンプから脱出するためにユダヤ人と偽った過去を持つ少年が、養子に迎えられた家庭で安息と愛されることを知る一方、ヤハウェ神を信じていれば人種・国籍に関係なくユダヤ人と認定されるはずのイスラエルで、肌の色が黒いというだけで差別されるという現実。家族も故郷も失い、名前すら奪われた孤児が新しい環境に順応し成長する過程で、自己のアイデンティティを回復させるまでの長い道のりを故郷にいたときと同様、裸足で歩もうとする。白人に与えられた靴は彼にとっては足枷にしか過ぎず、裸足になることが故郷と自由への渇望を癒す唯一の方法なのだ。


イスラエルに移住するエチオピアのユダヤ人に混じって出国したシュロモは、フランス系の家庭に引き取られる。難民キャンプに残してきた母のことを思いつつも心の傷も次第に癒え、利発な青年に成長したシュロモは医者になる決意をする。


エチオピア飢饉パレスチナとの和解、湾岸戦争、そしていまだ続くアフリカの難民問題。非ユダヤのアフリカ人が見たイスラエルの現代史という趣なのだが、シュロモの内面にスポットを当て過ぎたため社会の変遷が見えにくい。たしかにシュロモの子供時代は悲惨だが、養父母は非常に愛情に満ち自分の子供同様に育ててくれるし、養子にしたことに対して見返りを求めているわけでもない。つまり難民の孤児としては非常に恵まれているのだ。


もちろん、引き裂かれた母への思いや黒人への差別、自分が偽ユダヤ人であることを隠して生きている負い目など、10代の若者にとっては背負いきれないくらいの重荷に違いない。そのあたり、シュロモの苦悩を深く描くべきだろう。そして、その苦悩が養父母や恋人によって和らげられてこそ映画としての劇的な効果が出るはず。いちおうそういった家族や恋人との愛や葛藤は描かれているのだが、それにしても2時間半という上映時間の割には物語のヤマとなるエピソードが少ないのではないか。


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