こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

素粒子

otello2007-03-31

素粒子 ELEMENTARTEILCHEN


ポイント ★★★
DATE 07/1/16
THEATER Togen虎ノ門
監督 オスカー・レーラー
ナンバー 9
出演 モーリッツ・ブライプトロイ/フランカ・ポテンテ/マルティナ・ゲデック/クリスティアン・ウルメン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


体はもう若くないのに、性的欲求だけは若いころよりむしろ旺盛。性に奔放な母親のせいで抑圧された少年時代を送った男は、どこか精神のバランスを崩している。恋のときめきや愛の温もりではなく、もっと根源的な性欲に忠実に生きようとする。しかしこの映画は、そんな主人公の精神につかの間の休息を与えても、決して解放しようとはしない。つかみかけた幸せがするりと指の間から逃げていく、あくまでも残酷な真実がそこに横たわる。


自分の性欲を抑えきれないブルーノは妻子に去られた後ヒッピーの村で生活を始め、クリスティアーネという女性と知り合う。ブルーノの異父弟・ミヒャエルは天才的な数学の才能を生かしてクローン技術を完成させる一方、幼馴染のアマンダと結ばれる。


ブルーノもミヒャエルもやっと理想のパートナーを見つけたと思ったら、それぞれ彼女が不幸に襲われるという皮肉。性の喜びを得、やっと自分の人生に充足感を覚えた次の瞬間、生の継続を奪われるのだ。ここにおいてセックスは、ただ単に快楽を追及するのではなく人間の存在の根本をなす思想として描かれる。だからこそ、性交を経ずに子孫を作る研究を完成させたミヒャエルは初めてのセックスでアマンダを妊娠させるが、その子が生まれることはない。性=生、神が定めた自然の摂理を侵す者の遺伝子はコピーでしか残せないのだ。


苦悩と絶望、そしてわずかな希望。人間が生きていくうえで必ず出会う試練と、いかに向き合うか。結局、ブルーノはそれに押しつぶされ克服することはできないが、ミヒャエルは淡々と受け入れることで乗り越える。人生の享楽を追い求め続けた彼らの母親が教えてくれたもの、それは心をオープンにして欲望に身を任せよということ。頭でわかっていてもそこに踏み切れず悩む2人の息子たちこそ、より人間的な感情の持ち主に見えて愛おしい。


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