こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

あかね空

otello2007-04-03

あかね空


ポイント ★★
DATE 06/1/12
THEATER 角川ヘラルド
監督 浜本正機
ナンバー 6
出演 内野聖陽/中谷美紀/中村梅雀/勝村政信
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


CGによって細密に再現されたパノマラのような江戸の町並みとあかね色に染まる夕焼け空。人工着色料を使ったような色合いはいかにもデジタルといった風合で、自然光のすばらしさに遠く及ばない。そこで繰り広げられるべき江戸町人の人情悲喜劇もどこか感情に対する踏み込みが甘くぎこちない。夫と妻、親と子といった家族間の愛と葛藤の歴史を数十年にわたって描いている割にはヤマ場が少なく、個性の乏しい作品になってしまった。


京の豆腐職人・永吉は江戸・深川の長屋で商売を始めるが、京風はさっぱり売れない。だが、桶屋の娘・おふみのアドバイスで徐々に売れ始め、やがて二人は祝言を挙げる。18年後、永吉は大通りに店を構え3人の子にも恵まれるが、長男の栄太郎が道を踏み外していく。


京の絹ごしのようにしなやかだが芯はしっかりしている永吉と、江戸の木綿のようにざっくりとしたおふみ。まったく歯ごたえも味わいも違う豆腐のように二人の性格も違う。おふみはまさに江戸っ子という感じの気風のよさで永吉をサポートするのだが、肝心の永吉が描写が物足りない。もっと大豆、水などの原材料に対するこだわりや、京独特の加工法を見せないと江戸風との違いが出ないではないか。そして、なぜその豆腐が最初は売れなかったのに徐々に口になじんでいったのか詳らかにしないと、説得力に欠ける。せめて永代寺住職か相州屋に彼の豆腐の魅力を語らせないと、どんな豆腐なのか観客には想像がつかない。料理やお菓子なら見た目でおいしさを表現できるが、白い直方体でしかない豆腐の魅力は言葉にしないと伝わらないのだ。


後半、栄太郎が悪徳業者の罠にはまり身代を乗っ取られそうになったときに、やくざの親分・傳蔵が心変わりする場面もご都合主義的だ。傳蔵こそ幼時に行方知れずになった相州屋の息子で、永吉の豆腐を食べて自分が豆腐屋の息子であったことを思い出すというお安い展開。中谷美紀の熱演がなければ、にがりを使わない安物の凝固剤で作った豆腐のような映画になっていただろう。


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