オール・ザ・キングスメン ALL THE KING'S MEN
ポイント ★★*
DATE 07/3/14
THEATER ソニー
監督 スティーヴン・ゼイリアン
ナンバー 50
出演 ショーン・ペン/ジュード・ロウ/ケイト・ウィンスレット/ジェームズ・ガンドルフィーニ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
権力が人を腐敗させるのか、人が権力を堕落させるのか。潔癖な人格ゆえ不遇をかこっていた男が、高邁な理想と輝かしい未来を武器に権力を握ると、その裏の顔を見せ始める。多大な影響力を持ち、号令一下たくさんの人が動き、ひざまずくという麻薬のような甘美な誘惑。ショーン・ペンは巨大な力の魅力に飲み込まれ、自分を律することを忘れた主人公をエネルギッシュに演じる。夜の屋外で演説するスタークの影が巨大な幻影となるシーンに、虚像まみれた政治の世界が見事に凝縮されている。
小学校建設にまつわる役人の汚職を糾弾したスタークは、その学校の校舎で事故が起きたことから注目を浴び、知事選に立候補する。手厚い福祉を公約するスタークは圧勝し、選挙戦をレポートしていた記者のジャックはスタークのスタッフに転身する。
スタークのスキャンダルまみれの私生活をのぞくうちに、ジャックの良心は痛み、やがてその痛みすら感じなくなっていく過程が恐ろしい。清濁併せ呑む器量が政治には必要だが、もはやスタークの暴走は止められない。ジャックは気が進まないながら身内をスタークに差し出し、恋人を奪われても己の無力を嘆くのみ。権力の前では言いなりになるかひれ伏すしかない。プライドを捨てて仕事に手を汚すジャックは、あらゆる弱き人々の象徴として描かれる。
一方で、スタークの政敵となる判事はクリーンな人物だが、それでもたたけば誇りが出る身。彼とて若いときの女性をめぐる金銭トラブルを封印して生きている。どんなに立派に見える人物も、一皮剥けば人生のどこかにスキャンダルを抱えているのだ。見かけに騙されず真実を見抜くことの大切さを説く一方で、見ている観客にも「お前は誠実に生きているか」と鋭いナイフを突きつける作品だった。ただ、善悪の区別をあまりにも明白にしすぎるのは古い原作のせいだろうか。いくら舞台が50年以上前とはいえ、善悪の彼我を大上段で説くシーンは古臭さを否めない。