こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

恋しくて

otello2007-04-16

恋しくて


ポイント ★★*
DATE 06/12/8
THEATER スペース汐留
監督 中江裕司
ナンバー 214
出演 石田法嗣/東里翔斗/山入端佳美/宜保秀明
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


「うまかった」「うしまけた」関東地方では絶対に誰も口にしない食後のギャグの応酬に思わず椅子からずり落ちた。おならの音の競い合いも、建物が低くてすぐに臭いが風に流される南の島だから恥ずかしがらずにできるのだろう。時に字幕が必要なくらい本土と言葉が違う石垣島、この島に生まれ育った高校生たちの青春は決して目新しいものではない。ただ、この風土が育んだおおらかな人間性が時間の尺度の違いを際立たせ、ゆったりとした気持ちにさせてくれる。


高校に入学した栄順は幼馴染の加奈子と再会する。そして加奈子の兄・セイリョウに無理やりバンドを組まされる。やがて文化祭では飽き足らずマコトや浩といった仲間と共に、高校生だけのバンド大会を目指す。


子供のときのままのメンタリティで再会した栄順と加奈子はお互いのことをよく知っているからこそ平気でおならをする。その人間関係の濃さは小さな島ならではで、誰もが顔なじみで互いに気安く声を掛け合う。そんな環境で、いつしかふたりはお互いを意識し始める。仲のいい異性の友達が恋人に変わる瞬間、栄順が加奈子にぎこちないながらも精一杯の勇気を振り絞って自分たちが付き合っていることを確認するシーンが、高校生らしくて初々しい。もはや過ぎ去った青春のノスタルジーだけでなく、恋するときめきと将来への希望と漠然とした不安が入り混じったこの年頃ならではの微妙な心の揺らぎがよく描けていた。


島の音楽祭で優勝した栄順たちは東京でオーディションに挑戦する。彼らが音楽の道を志すのはよいのだが、あまり本気で練習しているようには見えない。東京で全国レベルのコンテストで優勝するくらいなのだから、もっと必死で練習しなければならないはず。しかし、そういった血のにじむような努力の過程や仲間同士の葛藤は一切省かれ、いきなり成功してしまうのはどうしたものか。セイリョウが残した歌も松田聖子が歌っていた「スウィート・メモリーズ」にメロディがそっくりだし。せっかくいい題材なのだから、もっとエピソードを煮詰めて説得力のある構成にしてほしかった。


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