こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

恋愛睡眠のすすめ

otello2007-04-30

恋愛睡眠のすすめ THE SCIENCE OF SLEEP


ポイント ★★★*
DATE 07/2/27
THEATER エスパスイマージュ
監督 ミシェル・ゴンドリー
ナンバー 40
出演 ガエル・ガルシア・ベルナル/シャルロット・ゲンズブール/アラン・シャバ/ミウ・ミウ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ダンボールとセロファン、そして脱脂綿で作られた夢の中の世界は、すばらしい出来事で溢れている。愛や成功といった自分の願望が叶い、幸福感に心が満たされる。さえない若者が、眠っている間だけは自分の人生の主人公になれる。決してリアルなヴィジョンではなく、ファンタジックに彩られたおとぎ話のような造形だ。豊かなイマジネーションとユニークな表現力がシンクロした繊細な感性の産物は、やがて主人公の潜在意識に観客を引きずりこむ。それは適度な刺激ととろけるような甘さが混在したぬるま湯に身を浸しているような快感だ。


パリに引っ越してきたステファンは隣人のステファニーに恋をするが、彼女は独身主義。仕事もうまくいかないステファンは睡眠中だけでしか思い通りの人生を送れなくなる。しかし、やがて現実と虚構、睡眠と覚醒の区別があいまいになり、周りの人間を巻き込んでいく。


べつに苦しい生活をしているわけでもなく、大きな野望があるわけでもない。ステファンの希望は恋をうまく発展させることとイラストの仕事をすること。そういったささやかな願いすら思い通りにならないのが現実。そこで深刻に悩んだりイチかバチかの勝負に出る勇気もない。だからこそステファンは夢に逃げ込む。彼にとって夢のなかの自分こそが現実で、覚醒中の自分は仮の姿。そうした不満を感情の爆発という形で表現できないステファンの不器用さが共感を呼ぶ。


やがて映画自体も夢と現実の境界線がなくなる。そう、ステファンにとってはもはやその区別すら無意味なことなのだ。そして、周囲の人々は決してステファンにこちら側に戻ってくるように強要はしない。ゴンドリー監督は、ひとつ間違えると統合失調症患者の悲しい物語になりかねないところを、彼の睡眠中の想像力をポジティブに捉える。幻覚であるがゆえに精神的な安定を得られるというコミカルな演出の下にステファンの脳内現象を映像にした手腕は鮮やかだ。


↓メルマガ登録はこちらから↓