こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

こわれゆく世界の中で

otello2007-05-02

こわれゆく世界の中で BREAKING AND ENTERING


ポイント ★★*
DATE 07/4/26
THEATER シャンテ
監督 アンソニー・ミンゲラ
ナンバー 84
出演 ジュード・ロウ/ジュリエット・ビノシュ/ロビン・ライト・ペン/ラフィ・ガヴロン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


仕事は順調なのに美しい妻との間にすきま風が吹き始め、ちょっとした言葉の行き違いが波紋を呼びやがて感情が爆発する。彼らは何が不満で、何に腹を立てているのだろう。戦争や貧困とはおよそ無縁な生活を享受しているのに、心をうまくコントロールにできない自分を責めるかのように自らと周りの人間を傷つける。そんな中、主人公は偶然知り合った豊かさとは無縁な女に魅かれていく。愛というに冷たく、信頼というにははかない。満足を知らない心が一時の安らぎを見出していく。


ロンドンの下町を再開発する建築家・ウィルはリヴと彼女の娘のビーと同棲しているが、ビーの自閉症のせいでギクシャクしている。そんな時、ウィルのオフィスが窃盗団に襲われるが、犯人の少年を尾行するうちに少年の母親・アミラに好意を持ってしまう。


ウィルはよき社会人・よき父親になろうと常に努力している。なのにどうしてリヴやビーは彼の気持ちに対して理解を示さないのだろうか。家庭とは所詮他人同士の集まり、お互い理解しあおうという求心力がなければいつかは壊れてしまうだろう。アミラとの一線を越えさせたのはリヴ以外の何者でもないのに、ウィルがすべてを懺悔して愛しているといっても、リヴは「あなたは何もわかっていない」と突き放し、結局ウィルを母娘の輪には入れない。いくらリヴを愛そうとしても報われないウィルの気持ちを、寒々とした映像が強調する。一方で、ボスニア難民のアミラにとって息子は唯一の希望。息子の犯罪をきっかけに近づいてきたウィルの弱みをつかみ、取引材料にするあたり、戦火をくぐり抜けてきた母親のしたたかさをうかがわせる。


それでもウィルは何か確かなものを求めて、人を思いやる気持ちを忘れない。窃盗団のことを水に流し、アミラの息子を許そうとさえする。自己満足でもいい、他人を助ければ世界はきっとよくなるというウィルの気持ちが最後までぶれなかったのが救いだった。


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