こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

バベル

otello2007-05-03

バベル BABEL


ポイント ★★★
DATE 07/5/2
THEATER WMKH
監督 アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ
ナンバー 87
出演 ブラッド・ピット/ガエル・ガルシア・ベルナル/菊池凛子/アドリアナ・バラッザ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


米国人、日本人、メキシコ人、モロッコ人。人間の命の等しく貴重なはずなのに、国籍や人種によって明確にランクが分かれているという現実。それでも人間である以上、父や母の子を思いやる気持ちは同じ。幼児、ローティーン、ハイティーン、そして成人した子供を持つそれぞれの親が家族の危機に直面したときの対応を、時制を分解した突き放したようなトーンで描く。そして最後には「抱きしめる」という行為で、どんな言葉よりも密接に親子の絆を確かめ合う。


モロッコ観光中の米国人・リチャードの妻が突然銃撃を受け、重傷を負う。リチャードの2人の子を預かる家政婦のアメリアは息子の結婚式に出るためにメキシコに帰る。一方、襲撃に使われた銃は綿谷という日本人のものだった。


モロッコの少年たちは早く父親に認められる一人前の男になろうと背伸びし、日本の女高生は世の中すべてのものに対して不機嫌。米国人の子供はまだ大人に従順で、メキシコ人の息子はもはや大人として母親を追い越している。異なる4世代の子供たちとその親とのコミュニケーションのとり方は、そのまま子を持つ親にとっては自分のおかれた立場と共通するだろう。家族に重大な事件が起きたとき、どう対処するかで親子のあり方が違ってくる。


特に、音のない世界に生きる聾唖の女高生・チエコの感覚がとてもリアル。健常者からはバケモノのように見られ、クラブでも喧騒よりも明滅するライトしか感じない。なぜ、自分は耳が聞こえないのかというやり場のない怒りと、誰にも理解されないと思い込む孤独。そして募るばかりの性的な興味。なにもかも障害のせいにしなければ母親のように自殺してしまいそうな脆さ。そうした複雑な感情を非常にそつなく演じていた。だが、この日本のエピソードは無理やりモロッコに始まる悲劇の連鎖と結び付けているような必然性のなさを感じた。


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