こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

俺は、君のためにこそ死ににいく

otello2007-05-18

俺は、君のためにこそ死ににいく


ポイント ★★
DATE 07/5/15
THEATER 109KB
監督 新城卓
ナンバー 96
出演 徳重聡/窪塚洋介/筒井道隆/岸恵子
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


太平洋戦争末期、特攻隊員として集められた若者たち。お国のためといって短い命を散らしていった英霊の言葉を現在に伝えることは大切だ。しかし、彼らの胸に秘めた思いを知る食堂の女将はそれぞれの隊員に強い思い入れがあったのだろう、彼女の口から出た遠い記憶はとりとめもなかったはず。それをきちんと整理して物語として成立させるのが脚本家の腕なのに、映画自体も散漫なエピソードの連続でそれが有機的にひとつのストーリーとして結実しているとは言いがたい。


昭和20年、自爆攻撃を敢行する飛行隊として知覧に召集された兵員たち。彼らは指定食堂の女将に親身に面倒を見てもらい、母親以上の感情を持つようになる。やがてひとりまたひとりと出撃命令が下り、沖縄に向けての片道飛行に飛び立っていく。


もちろん、兵士として国のために殉ずるという行為は立派なものに違いない。しかし、特攻に志願せざるを得ないような状況を作り上げ、やたら彼らを死に急がせた当時の状況を美化するようなトーンには違和感を覚える。なぜもっと彼らの内面を描かないのだろう。特攻を成功させることは非常な名誉であることは分かる。しかし、生きて帰ってこられない状況に、思わず涙したもの、恐怖のあまりひざが崩れたもの、こっそり弱音を吐いたものなどもいたはず。それを皆、任務として毅然と受け入れられたのかは疑問に思う。


焦点を当てる隊員の数が多くて物語が絞り込まれていないのが最大の欠点。何度も出撃しながら天候不良や機体の不備などで戻ってくる田端少尉など、作りかた如何では彼のエピソードだけでも十分に堪能できたはず。妻が会いに来たら出撃後、しかし、戻ってくる田端。田端はほとんどの飛行機が目的を果たせず撃墜される特攻の現実を知っている。田端と妻の一夜だけの再会と、その後に続く犬死にスポットを当てれば戦争の悲劇、特攻の無意味さなどがより鮮明に描けたのだが。スケールを追求するあまりお祭り映画になってしまったのは残念だ。


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