こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

監督・ばんざい!

otello2007-06-04

監督・ばんざい!


ポイント ★
DATE 07/4/2
THEATER 映画美学校
監督 北野武
ナンバー 63
出演 江守徹/岸本加代子/鈴木杏/井出らっきょ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


自らの才能の枯渇すら映画にしてしまおうというたけしの毒は、自分だけに向けられたものではなく映画界全体に向けて発せられたものなのだろう。しかし、少なくとも日本映画界はたけしが思っているほど停滞しているわけではない。設定の突飛さや物語の奥行きのなさを自嘲的なジョークで覆う手法は、一見面白いが、それを踏み台にして新たなイマジネーションにたどり着くのならともかく、同じところを回っているだけ。資金が潤沢で自分の好きな映像を撮れることを自慢しているようないやらしさが全編を覆う。


映画監督のキタノは得意のギャング映画を封印したために極度のスランプに陥る。テーマや作風を変えいろいろとチャレンジするが、みな大コケか空中分解。やがてCGを多用したSF超大作を撮り始めるが、いつの間にか女詐欺師と学生服の男の恋愛映画になってしまう。


小津風ホームドラマから時代劇まで、あまりに安易な企画を連発する前半は、テレビ局主導の大衆向け大作映画が興行成績上位を独占する日本映画界の現状を皮肉ったものなのだろう。映画を見に来る観客の知能レベルなんてこの程度のもの、適当に笑いと涙を郷愁を織り交ぜておけば喜ぶだろうという製作サイドの思惑を見事に言い当てている。


しかし、後半はもはやギャグというより悪ふざけの連発で、見ていて苦痛を感じる。面白かったのはラーメン屋でのエピソードのみで、あとは脈絡のない単発のギャグがただ羅列されるだけだ。それは風刺も毒も一切なく、上映時間を埋めるためだけの無意味な映像にすぎない。いったい北野武という男は映画を愛しているのだろうか。少なくとも、わざわざ見に来てくれた観客を愛していないことだけは確かだ。あの張りボテ人形は、この映画を作ったのは本当は自分ではないという言い訳にだけは使って欲しくない。


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