こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

選挙

otello2007-06-11

選挙


ポイント ★★★*
DATE 07/4/11
THEATER 映画美学校
監督 想田和弘
ナンバー 71
出演 山内和彦/山内さゆり/やまぎわ大志郎/
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


駅の改札口で行きかう有権者に自分の名前を連呼するだけでなく、小学生やカーネルサンダース人形にまで握手を求める。政策は二の次、とにかく名前を覚えこませることだけを念頭に行う街頭演説にはすさまじい迫力があり、ひとりの熱意と愚直なまでの行動は強烈なリアリティで見るものを圧倒する。まったくの地縁のない選挙区の市議会選挙に妻と2人で乗り込んできた政治の素人が、いかにして当選するまでを、カメラは彼のパートナーとしてリポートする。そこに作り手の感情は一切持ち込まず、ただただ殺人的な選挙戦スケジュールをこなしていく主人公の姿を追う。


2005年秋、川崎市議補欠選に自民党から落下傘候補として出馬した山内和彦。街角にポスターを張り、自民党支援者のもとをこまめに周り、幼稚園・老人会・秋祭りといった地域の催しでも顔と名前を売る。小泉人気にも便乗し、いよいよ投票日がやってくる。


たとえ市議会議員とはいえ、政治家になるためには途方もないエネルギーが必要とされる。そしてそのエネルギーの元となる「当選したい」という意思の力の強さが試される。仕事をなげうって選挙戦に大金を投じ、人生のすべてを犠牲にして初めて支援者が動く。政策よりもドブ板営業、伝統的な自民党式の選挙活動で、市民の声の代弁者を職業にする者の資質が問われていく。そんな中、妻のさゆりが「なぜ仕事をやめなきゃならないの」と落選の恐怖から山内に詰め寄るシーンは非常に切実。落選=失業&借金という政治家の世界の厳しさが妻を追い詰めるが、山内は取り合わない。そんな山内の楽天的な性格が、かえって悲壮感を醸し出している。


そして選挙戦最後の日、声をからして自分の名を絶叫し続ける山内。なぜ政治家を志し、政治家になって何がしたいのか、また何が彼をここまで衝き動かすのかは一切描かれない。それでも全身全霊をかけて闘う姿は感動的だ。結局、山内は約1000票差で当選する。余談ながら、飽きっぽい性格が災いしたのだろうか、07年4月の統一地方選には不出馬、5月2日をもって任期は終わる。彼は政治家という職業を体験したかっただけなのだろうか。


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