こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ボルベール 帰郷

otello2007-07-10

ボルベール 帰郷 VOLVER


ポイント ★★★
DATE 07/7/2
THEATER 渋谷シネフロント
監督 ペドロ・アルモドバル
ナンバー 129
出演 ペネロペ・クルス/カルメン・マウラ/ロラ・ドゥエニャス/ブランカポルティージョ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


たくさんの秘密と言葉にできなかった思い。母と娘、姉妹という肉親だからこそ感じる距離感と近親感。女にしか分からない苦悩と女だからこそ感じる葛藤。妻を泣かせ娘に手を出すような男にしかめぐり合わなかった女が、最後には女同士の思いやりで人生を取り戻すという展開、この作品もまたペドロ・アルモドバル流の女性賛歌・男性蔑視の思想が貫かれている。女はしたたかで生き残る才能に長けているだけでなく、小さな出来事で自分の生活を華やかに彩る才能を持っているのだ。


夫と15歳の娘と暮らすライムンダ。ある日失業した夫が娘をレイプしようとして逆に刺される。ライムンダは夫の死体をレストランの冷凍庫に隠すが、偶然現れた映画のロケ隊にランチを振舞うことになる。そんな時、姉のソーラのもとに死んだはずの母親が戻ってくる。


やはり娘は母に似るのだろう、ライムンダは母のことを嫌いながらも同じ道を歩んでしまうという皮肉。だが、その皮肉こそが母娘を和解させ、より深く理解させることになるという仕掛けに思わずひざを打つ。ライムンダの父も浮気した上にライムンダをレイプしたり、母親が愛人もろとも夫・つまりライムンダの父を焼き殺したりという過去が明らかになるにつれ、運命に導かれるように2人の溝は狭まっていく。ラストで、伝えられなかった母への気持ちと誰にも言えなかった秘密を打ち明ける決心をするシーンに、母と娘に流れる同じ血の濃さを思い知らされる。まあ、母娘の男の趣味が同じで、ろくでもない男に惚れる体質が遺伝しただけということだが。


ライムンダを演じるペネロペ・クルスが、ハリウッド映画では見られなかったほど生き生きしている。非常に感情的で勝気だが、朝から晩まで家族のために働く愛情の濃いがんばり屋。それでも女であることを捨てず、胸を強調したドレスと真っ赤なリップ、視線を印象付けるアイメイクは欠かさない。これぞ情熱的なスペイン女という趣だった。


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