こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アドレナリン

otello2007-07-15

アドレナリン CRANK

ポイント ★★*
DATE 07/5/29
THEATER シネマート
監督 ネヴェルダイン/テイラー
ナンバー 106
出演 ジェイソン・ステイサム/エイミー・スマート/ホセ・パブロ・ガンティーロ/ドワイト・ヨーカム
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


視界がゆがみ聴覚が敏感になる。朦朧とした意識の中で走り、運転し、殴り、撃つ。一時も立ち止まることができない主人公が体験するのと同じ感覚を、観客にも味あわせようとするカメラワークとヴィジュアルエフェクトは見事だ。アドレナリンが分泌されているうちは正気を保つことができるが、分泌がとまるとたちまち思考が濃い霧におおわれる様子が非常にリアルに再現されていた。しかし、スピードよりも主人公の主観を重視しすぎたために疾走感に欠け、力強さとスリルが物足りない。


殺し屋のシェブは対立組織のベローナに毒物を注射されるが、アドレナリンが毒の抑制効果をもつおかげで常に興奮状態を余儀なくされる。しかし、解毒剤はなく、残された時間はわずか。シェブはふらふらになりながらも街中を探し回り、ベローナを追い詰める。


遠のく意識を取り戻すためにコカインから点鼻薬、ホルモン注射から、果ては自分の手を焼く。鍛え抜かれた肉体と強靭な精神を持つ者だけがなしうる荒業だ。それでも、元々肉体派俳優のジェイソン・ステイサムからその能力の50%以上を奪うような設定はいかがなものか。確かに全力疾走し抜群の体術を駆使するが、いつもの切れ味には程遠く、目を見張るような身体能力で危機を脱するというカタルシスが味わえない。タイムリミットは設けてもいいが、アクションには万全の体調で臨んで欲しかった。


シェブの恋人が出てくるのも、物語に花を添えるどころか、かえってテンポを削いでいる。彼女が何らかの機転を利かしてシェブを助けるのならまだしも、足を引っ張っている。チャイナタウンで路上セックスするシーンなど映画の下品にしているだけだ。映像の表現技法や音楽の使い方にはオリジナリティがあふれていて才能の片鱗が見られるのだが、もう少し男の美学の中にユーモアを含ませるようなスタイルを確立すればスタイリッシュな作品になっていただろう。


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