こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

天然コケッコー

otello2007-08-03

天然コケッコー

ポイント ★★
DATE 07/7/30
THEATER シネスイッチ銀座
監督 山下敦弘
ナンバー 153
出演 夏帆/岡田将生/夏川結衣/佐藤浩市
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


長閑な農村風景の中でゆったりと流れる時間、濃密な人間関係の中で自分を見つめ直す作業と初恋。進歩や変化より、過去の延長線上にある現在を大切にしながら、中学生のヒロインは少しだけ背伸びして未来を覗き見しようとする。大人になるにはまだ心の準備ができていない、それでも大人の世界を理解し始めている。そんな少女の繊細な気持ちの変化をカメラはじっくりと見つめる。しかし、余りにも動きの少ない単調で間延びした映像の連続に、出るのはため息ばかり。もう少しドラマチックな要素をテンポよく織り込み、エピソードに緩急をつけなければ劇映画としては物足りない。


過疎村にある全校生徒6人だけの小中一貫校に、東京からの広海という中学生が転校してくる。はじめて同級生ができた中二のそよは、広海に魅かれる一方、最上級生であるがゆえに他の生徒たちにも気を配らなければならず、気をもんでいる。


東京からのイケメン転校生。それだけで田舎の学校では大事件であるはずなのに、さほど大騒ぎすることもなく淡々と物語りは進む。しかも、映画はそよの内面に踏み込むこともなく常に第三者の視点で彼女を見つめている。そよと広海の会話にしても、どこかよそよそしいさが常に付きまとい、じれったくなるほど躍動感に乏しい。もちろん中学生ならこのくらいの距離感のほうがリアリティはあるのだろう。だが、別に恋でなくてもいい、感情の発露や中学生なりの何かに一途な気持ちを描くなりしないと、平凡な日常だけでは豊かな自然も色あせて見える。


そよの父と広海の母が訳アリの仲でいつの間にか復縁しているというエピソードも、ほとんど物語りに波風を立てず単発に終わっている。親同士の関係がそよと広海の関係に影響を及ぼし、気まずさや反発を招くという展開にもならない。東京への修学旅行もそよが大都会の空気にあたられただけ。結局、事件らしいことは何も起きず、そよと広海は同じ高校に進学する。高校の制服に着替えたそよは新しい人生を始めるようで、また中学校に戻ってくる。せめて最後くらい、そよにこの狭い世界から外に向かっての一歩を踏み出して欲しかった。


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