こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ノートに眠った願いごと

otello2007-11-06

ノートに眠った願いごと


ポイント ★★★
DATE 07/7/27
THEATER ソニー
監督 キム・デスン
ナンバー 149
出演 ユ・ジテ/キム・ジス/オム・ジウォン/
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


幸せの絶頂期に愛するものが突然命を落とす、その悲しみとは関係なく世の中は勝手に動き時間は無常に過ぎる。いくら取り戻したくても、もう手が届かない。口にできなかった言葉、伝えたかった気持ち、そして何よりそれを受け止める相手がいないことの喪失感。時がたち、事故死した恋人が息絶える寸前まで自分のことを思っていてくれたことを知り、男は失った時間を取り戻す旅に出る。彼女の思い出と新しい発見、映画は色づく季節を背景にミステリーの要素も加え、コクの深い味わいを見せる。


検事を目指すヒョヌは恋人・ミンジュとの待ち合わせにデパートを指定するが、そのデパートが突然崩落、ミンジュは犠牲になる。10年後、ミンジュの遺品のノートを受け取ったヒョヌは、そこに記された新婚旅行計画通りにひとり旅を始める。そして、行く先々でセジンという女性と顔を合わせる。


ラブストーリーであるにもかかわらず、ビル崩落シーンがよくできている。予震のような揺れ、鉄骨がきしむ音、そしてコンクリートがひび割れて天井が落ちてくる。楽しそうな人々の顔が一瞬にして凍りつき、瓦礫に埋もれていく。それらのシーンがサウンドまできちんとデザインされ非常にリアルに事故を再現する。日常に降りかかる突然の不幸に、人々は声もなく押しつぶされるのだ。その後の、救護施設で待つミンジュの両親や廃墟の前の電話ボックスからミンジュの留守電にメッセージを吹き込むヒョヌの姿からは、遺族のやり場のない怒りと悲しみが感情の洪水となって押し寄せる。


実はセジンは崩落事故の生き残りで、ミンジュからノートを託されていた。ミンジュの最期をセジンに聞かされヒョヌは安心し、ヒョヌに話したことでセジンも事故のトラウマから解放される。心に傷を抱えた2人を引き合わせること、それがミンジュの遺志。ひとつ間違えれば大甘のラブストーリーになりかねない題材を、抑制の効いたタッチとモーツァルトクラリネット協奏曲で一線を画し、大人の鑑賞に堪えられる作品に仕上げていた。


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