こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

鳳凰 わが愛

otello2007-11-08

鳳凰 わが愛


ポイント ★★
DATE 07/7/18
THEATER 新宿ガーデンシネマ
監督 ジヌ・チェヌ
ナンバー 142
出演 中井貴一/ミャオ・プゥ/グォ・タォ/スン・チンチン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


妻を失った男と夫を殺した女。服役中の刑務所で運命的に出会ったふたりが、30年にもわたる獄中生活で愛を育てていく。それは絶望の中で生きる囚人が描く幻影に過ぎないはずなのだが、お互いの強烈な思いがたった一度だけの奇跡を起こす。恐ろしくなるほど長い歳月の間に外界は激変するが、刑務所内の環境は刑務官と娯楽が変わる程度。主人公の身辺にもう少し何か刺激的なエピソードを挿入していかないと、囚人の生活同様、単調な映画になってしまう。


傷害で有罪判決を受け服役したリュウは獄中で元死刑囚のホンと出会う。生きることに投げやりになっていたふたりは視線を交わすうちにお互いを意識し始める。そしてリュウは思いをこめた鳳凰の彫刻をホンに贈る。


なぜふたりは逃げようとしなかったのだろうか。国共内戦日中戦争など、激動の中国において混乱に生じて脱走し、身分を偽って生きていくことがそれほど困難とは思えないのだが、お互い刑期を勤め上げた後に一緒になろうなどと悠長なことを言っている。何より自由に対する渇望がふたりの間にはまったくなく、刑期の初期に脱走や中絶する以外はほとんど従順に服役している。彼らにとって塀の外で自由に生きるより、刑務所内のほうが安全で衣食が保障されているということなのだろうか。一度、ホンが谷底に落ち、リュウが助けに行くシーンがあり、ここに来てやっとふたりは結ばれる。しかし、なぜかおとなしく帰順し、また別離。それほど強い愛ならば、死んでも手と手を取り合っての逃避行を実行して欲しかった。


結局、共産党政権の恩赦で囚人は釈放される。すっかり年老いたリュウはム所仲間の遺体を弔った後、ホンの消息を訪ねる。ホンはすでに家庭を持ち、リュウは無言で去ろうとするが、凍った川で出会ってしまう。氷の裂け目から落ちたふたりが、水の中で死を目前にしてやっと思いを遂げるラストシーンには、大きな感動よりも徒労感しか覚えなかった。


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