こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

マイティ・ハート

otello2007-11-24

マイティ・ハート A MIGHTY HEART

ポイント ★★*
DATE 07/9/14
THEATER UIP
監督 マイケル・ウィンターボトム
ナンバー 183
出演 アンジェリーナ・ジョリー/ダン・ファターマン/アーチー・パンジャビ/イルファン・カーン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ひっきりなしに鳴らされるクラクション、渋滞、道路からあふれんばかりの人。微妙にぶれるカメラは、思い通りに行かないイライラと未知なる物への不安を強調し、テロリストの人質となったジャーナリストのおかれた境遇を代弁しているのだろう。いつ殺されるか分からないが、もしかしたら無傷で解放されるかもしれない。いつしか観客も不安定な足元を揺さぶられるような気持ちになっていく。それは人質の妻が味わう心労と疑心暗鬼に共通し、映画は最後まで緊迫感を失わない。


米国人新聞記者・ダニーはアルカイダ系テロリストの幹部の取材に行ったまま行方不明になり、妻のマリアンヌの元に誘拐されたという情報がもたらされる。米政府機関・パキスタン警察の捜査の下、犯人は絞り込まれていくなか、ダニーの死体が発見される。


ダニーの安否を気遣うあまり気も狂わんばかりになるのを必死で抑え、理性的に捜査に協力しようとするマリアンヌ。お腹にはダニーの子供がいるにもかかわらず、最後まで気丈に振舞う姿は鬼気迫る。犯人を憎むより、ただ無事にいてほしいという彼女の願いがスクリーンに共鳴する。ただ、映画自体が事実を時系列で追っているためエピソードが散漫な上、リアリティを出そうとするあまり登場人物が多くなりすぎてきちんと整理できていない。このあたりの構成を考えた上で撮影してほしかった。


この映画にはテロリストを憎むという気配が希薄だ。むしろジャーナリストの権利を主張し、イスラムの土地を土足で踏みにじるような欧米人記者に対する警鐘にも思える。脅しに屈しない姿勢を見せるダニーをことさら英雄視するわけでもなく、ただマリアンヌだけが悲劇の中心にいる。もはや善悪の区別がつきがたく戦争の原因すら曖昧になってきているアルカイダと米国。暴力の連鎖の果てに生まれた赤ちゃんだけが、平和への希望を物語る。


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