君の涙 ドナウに流れ ハンガリー1956
ポイント ★★★*
DATE 07/11/26
THEATER シネカノン有楽町
監督 クリスティナ・ゴダ
ナンバー 241
出演 イヴァーン・フェニェー/カタ・ドボー/シャーンドル・チャーニ/カーロイ・ゲステシ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
夢や希望、そして何より人間らしく生きたいという自然な願いさえ戦車で踏み潰されてしまう。生き残った者には敗北の無力感しか残らず、わずかに現場にいなかったものだけが闘い続ける意思を固める。1956年のハンガリー、ソ連の衛星国家として東側に組み込まれた国民の怒りとロシア人への敵意、そして銃を取って立ち上がることが若者の特権だった時代が青春の輝きのように蘇る。この映画を通じて伝わってくる、自分たちの手で新しい社会を作っていこうという情熱が今も衰えていないハンガリーという国がうらやましい。
水球ナショナルチームのエース・カルチはメルボルン五輪目指して練習の日々。そんな時、反政府デモを呼びかける女学生・ヴィキと出会い、彼女に惹かれていく。やがて友人が警察に射殺されたことから、カルチも水球を捨て改革に身を投じていく。
体制に反旗を翻し命がけの想いを煮えたぎらせ、民主主義を勝ち取る。それはあらゆる近代国家が歩んできた道だ。政治的軍事的に東側ブロックに組み入れられ、ソ連と対等に闘えるのはスポーツの場だけ。父祖の地を踏みにじられ愛するヴィキの消息も知ることができないカルチにとって、オリンピックでソ連を破ることでしか意地を示せない。乱闘の末ソ連を破り、胸の金メダルを握り締めるカルチの心に去来する祖国と家族・恋人への思いこそが、自由を土足で踏みにじられたハンガリー人すべての心を象徴する。そして、その後の歴史を知っている観客にとって、30数年後には理性が専横に打ち勝つのが自明であることが安心感を与えてくれる。
ハンガリー動乱50周年を意識して製作されたのだろう。しかし、国家のヒーローと革命の女闘士の恋を中心に激動の季節を描き、ロシア人を悪役にすえることでハンガリー国民の愛国心を煽ろうという発想は、それ自体が右翼的でリベラルな思想から離れてしまうのではないだろうか。。。