こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

やわらかい手

otello2007-12-07

やわらかい手 IRINA PALM


ポイント ★★★★
DATE 07/10/2
THEATER メディアボックス
監督 サム・ガルバルス
ナンバー 198
出演 マリアンヌ・フェイスフル/ミキ・マノイロヴィッチ/ケヴィン・ビショップ/シボーン・ヒューレット
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


孤独を癒すのは秘密。それはふたりだけが共有する甘い蜜の味。未亡人ながら一応息子夫婦が近くに住み、友人も近所にいるが、本当に心を開いて話せる相手はいない。そんな寂しさを抱えたオバサンが難病に苦しむ孫のために一肌脱ぐ。狭い世界から一歩踏み出すことで発見する新たな自分自身と他人への理解。ひとりの中年女性のささやかな勇気が生み出す波紋が、乾いた人間同士の絆と信頼を回復させていく。重苦しく寒々としたタッチの中で登場人物の繊細な感情を描きあげた演出は見事だ。


ロンドン郊外の小さな村に住むマギーは孫の病気を治療するための渡航費用を稼ぐために、ミキという男が経営するいかがわしい店で働き始める。そこは「手コキ」で男をイカせる性風俗店。マギーはイリーナという源氏名でたちまち売れっ子になっていく。


特技も資格もない中年女性が職を得ることの難しさ。マギーは風俗に流れるが、あくまでこの仕事はカネを得るためのもので、売れっ子になって渡航費を前借できても仕事へのやりがいは一向に感じない。一方で、仕事がばれたとたんに、プライドを傷つけられた息子や詮索好きの友人から拒絶されるマギー。だが、あまりうまくいっていなかった息子の妻だけは理解を示す。それは本来自分がすべきことの身代わりとしてカネを工面してくれたという、孫への愛が本物だったということを知ったからだろう。


やがて、そのひたむきさがカネの亡者のようなミキを変え、マギーも自分にとって何が必要かを理解する。孫への役割を果たし終え、ミキに気遣われことで生きる希望を取り戻したマギーは、仕事に対しても客に喜ばれ必要とされる接客をするようになるはずだ。ラスト、お互いの気持ちに気づいたマギーとミキは口付けを交わす。その温もりに満ちたシーンは、ふたりの関係が秘密でなくなったがゆえの危うさも併せ持つという、奥の深い余韻を残す。


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