こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

エンジェル

otello2007-12-10

エンジェル ANGEL


ポイント ★★★
DATE 07/9/3
THEATER FS汐留
監督 フランソワ・オゾン
ナンバー 175
出演 ロモーラ・ガライ/サム・ニール/ルーシー・ラッセル/マイケル・ファンスベンター
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ヒロインの想像力が作り上げた世界は美しく彩られた愛の言葉に満ち、そのイメージは永遠に色褪せない。現実の生活においては人の気持ちは変わり愛も移ろう。少女のころ夢にまで見た豪邸で召使にかしづかれる生活、ハンサムなアーティストの夫、若くして作家として成功した女性が自ら創作した小説世界を実生活に持ち込もうとするが、物語の登場人物のようには幸せになれない。作品の書き換えを一切拒むプライドが、現実は小説のように自分でコントロールできないことに苦しむ姿をより一層際立たせる。


文才に恵まれた少女・エンジェルはノートに書きためた小説を出版社に持ち込む。その小説は大ヒット、一躍人気作家になる。そんな時、パーティで知り合った画家・エセルと恋に落ち、ふたりは結婚する。


運命を切り開き成功を手に入れるためには、自分自身を信じること。夢を現実に変えるには、そうなることを強く願い一片の疑いも持ってはいけない。その強烈な思いが自信にあふれた態度に表れ、エネルギーとなり周りの人間を動かすのだ。さらに嘘ですら事実と思い込んで他人に信じさせる。エンジェルの、自分の出自だけでなく母の経歴まで詐称する厚顔さは妄想の域に達している。それが作家の業なのだが、彼女にとって自分で想像したことこそが唯一の真実となっているのだ。


一度執筆を始めるとそのペンはよどみなくストーリーを紡ぎだし、寝食を忘れて最後のピリオドまで走り続ける。まさに神に愛された証明。一方で、才能のない夫が妻に扶養される屈辱から道をはずしていく。それに気づきながらも自分の価値観こそすべてと思い込むエンジェルの一途さがあはれを誘う。芸術と愛、併立するようで相反する二つの概念がぶつかり合い、融合し、やがて反発する過程で、人生における成功と満足度の総和には上限があることをこの映画は教えてくれる。


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