こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

夜顔

otello2007-12-15

夜顔 BELLE TOUJOURS

ポイント ★★*
DATE 07/9/21
THEATER 映画美学校
監督 マノエル・ド・オリヴェイラ
ナンバー 190
出演 ミシェル・ピコリ/ビュル・オジエ/リカルド・トレバ/レオノール・バルダック
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


男はいつまでも過去を引きずり、女はあっさりと過去を切り離す。濃縮された官能の時間を共に過ごしたふたり、しかしその距離は埋めがたいほど開いている。かつては甘美な秘密という蜜をなめあいサディズムを極めたにもかかわらず、もはやその思い出は遠い。老境に達した男と女、その心に潜む過去、特に肉体関係への想いの温度差がそのまま男女の違いとなって、現在に寄りかかる。別れてしまえば男の記憶ごと捨てるという現実の前に、下心は無残に打ち砕かれる。


コンサートの途中で客席にセブリーヌの姿を見つけたアンリは、早速後を追う。2人は38年前、不倫関係だった仲、アンリは彼女への思いをバーテンに打ち明ける。やがてアンリはセブリーヌを見つけ出し、強引に食事の約束を取り付ける。


まだ不倫が背徳の香りを漂わせていた時代、快楽に身をやつすというふたりの行為は絶対に口外できないスキャンダルだった。男にとっては親友の妻、女にとっては夫の親友、ただひとり妻にも親友にも裏切られていた男の人生。彼の死がセブリーヌを修道女のような女に変えたのか。それともただ単に肉体の老化から性欲が消えてしまったのか。再会したふたりは昔を懐かしむわけでもなく、必至で口説こうとするアンリに対し、セブリーヌは自分は変わったことを繰り返す。ハエの羽音がするいわくありげな箱をプレゼントされても冷たい態度は変わらない。それは明らかにアンリを過去の亡霊としか思っていないセブリーヌの固い決意にも見える。


やがてアンリは、ふたりの密会を夫は知っていたかという核心に迫る。セブリーヌは彼の話には興味がなく、席を立つ。ニワトリは3歩で忘れる、セブリーヌにとってアンリはその程度の男でしかなかったといういうことだろうか。この映画の本質は昔の愛人ともう一度寝たい男のスケベ心。それにに映画的修辞を施しただけだ。アンリがプライドを捨てて自分の気持ちを打ち明ければ、セブリーヌの気持ちも変わったかもしれない。。。


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