こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

チャーリー・チャップリン ライフ・アンド・アート

otello2008-01-05

チャーリー・チャップリン ライフ・アンド・アート
THE LIFE AND ART OF CHRALES CHAPLIN


ポイント ★★★
DATE 07/9/27
THEATER 角川
監督 リチャード・シッケル
ナンバー 195
出演
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ハリウッドでの初期の短編映画から絶頂期をへて「ライムライト」に至り、さらにスイス移住後の引退生活までを、丹念に追った意欲作だ。代表作のさまざまなシーンについて現代の評論家や映画関係者が語るが、マーティン・スコセッシの熱弁は秀逸。まさにチャップリンの表現術を研究し尽くした者だけが知る薀蓄に満ちた分析と解説は、現代にも通じる映画作りの教科書だ。


放浪紳士の扮装で人気を得たチャップリンだが、若いころの身体能力の高さにはいまさらながらに驚かされる。壁を登りローラースケートを操り綱渡りまでこなす。コミカルな外見とのギャップ、しかもスリルではなく笑いを取るための危険なアクションは押し付けがましさはない。これがジャッキー・チェン映画だったら延々とNG特集を見せられただろう。そして人気を不動にした「キッド」と最高傑作の「黄金狂時代」。笑いと涙の絶妙な配合と計算されたカメラワークは、映画という当時の最新メディアの中でも最先端を走っていたに違いない。


肉体のパフォーマンスに頼っていたサイレント時代から、言葉や音楽で感情を表現するトーキーの時代、チャップリンも自己の映画に対するスタイルを微調整しながら時代に乗り遅れまいとしていたのだろう。特に、過剰な資本主義に警鐘を鳴らす「モダンタイムス」とヒトラーを皮肉った「独裁者」に顕著。そして「ライムライト」では笑いが取れなくなった老コメディアンに自己を投影する。そのあたりの変遷は過去のチャップリン研究家も言及していて新鮮味はないが、それでも改めて見るとチャップリンの偉大さを痛感する。


その一方、女癖が悪く米国追放など私生活に恵まれなかったチャップリンは'52年以降スイスに定住する。晩年の安らぎの日々がプライベートフィルムに残されているが、老いを受け入れつつも映画への情熱を失わない素顔は生き生きとしている。彼は最後までアーティストだった。


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