こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

シルク

otello2008-01-24

シルク SILK


ポイント ★★
DATE 08/1/19
THEATER WMKH
監督 フランソワ・ジラール
ナンバー 15
出演 マイケル・ピット/キーラ・ナイトレイ/役所広司/アルフレッド・モリーナ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


遠く故郷を離れて世界の果てまでやってきた男が体験する異文化。それは西洋とはまったく異なる価値観を持ち高度に洗練されているにもかかわらず、主人公はその深淵に触れようともせず女に未練を残すだけという志の低さ。「ラスト・サムライ」のように日本に骨を埋めろとまではいわないが、せめてその習慣や思想を理解しようとするくらいの努力はすべきだろう。また、タイトルにあるにもかかわらず、養蚕業や絹織物に対する薀蓄も語られることなく、夫婦間のぬる〜い愛情だけがクローズアップされる。


製糸業が盛んな街の若者・エルヴェはエレーヌという娘と結婚、その後、蚕卵を求めて日本に旅立つ。時は幕末、雪深い山村にも動乱の兆しが見えていたが、何とか無事戻る。大金を手にしたエルヴェは大きな屋敷を買い、再び日本に買い付けに出る。


エルヴェはそこで美しい少女から手紙を受け取るのだが、その出会いに殉じることなく妻の元に帰る。しかし、「戻ってきて」という手紙の意味を知ったことで三たび日本を訪れ少女を探すのだが、村は戦乱に巻き込まれ廃墟同然。失意のうちに帰国したところに日本から別れの手紙が届く。このあたり、エルヴェが明治維新に巻き込まれて数奇な運命をたどるのならともかく、ただ少女を忘れられないだけだ。長く辛い旅の記憶の中では美しい少女との恋は唯一いい思い出だったのだろうが、あまりにも美化しすぎるナイーブさには恐れ入る。


エレーヌは、すでに莫大な富を得た夫が危険を冒して何度も日本に行くのは現地妻がいるからと思い込んでいたに違いない。子供ができない自分を捨て、いつか日本に行ってしまうのではないかという不安。だからこそわざわざ日本語で手紙を書き「本当は自分だけを愛してほしいけれど、あなたを愛しているからこそ自由にしてあげます」という複雑な本心を回りくどい方法でエルヴェに伝える。ところが、映画はそんな微妙な夫婦間の感情の往来を描けておらず、最後までシルクのような繊細な肌触りを得ることはできなかった。だいたい、焼き討ちにあった蚕の村にシーサーが転がっていること自体噴飯モノだった。


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