こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ

otello2008-01-25

ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ


ポイント ★★★
DATE 07/11/20
THEATER KT
監督 北村拓司
ナンバー 236
出演 市原隼人/関めぐみ/三浦春馬/浅利陽介
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


一瞬にして家族を失った悲しみを胸に抱いているのに、他人の前では平然としたフリをしている。しかし、夜になるとその悲しみが実体となりチェーンソーを振りかざして襲い掛かってくる。たったひとり、押しつぶされそうになりながら闘う美少女。一方で反抗するべき対象もなく、目指すべき夢もまだみつからず、漫然とした日々の中で刺激だけを求めている高校生は彼女の手助けをすることで悶々とした日常を意味のあるものにしようとする。彼の姿を通じて、物質的にも人間関係にも満たされているのに、何か物足りなさを感じている現代の高校生のリアルな感覚が巨大な妄想となって描かれる。


寮生活を送る陽介は親友の渡辺とぬるい友情を育んでいる。ある夜陽介は、公園で月から降ってきたチェーンソー男と戦う絵理という女子高生に出会う。陽介は絵理に近づき、夜ごとチェーンソー男と死闘を繰り広げる絵理の助太刀をする。


陽介はチェーンソー男に挑むことで絵理の悲しみを共有できたのだろうか。最初はまったく歯が立たず絵理の足手まといにしかならなかった陽介が、絵理と過ごすうちに自分のやるべきこと、そして死んだ友人にも誇れる生き方を模索する。絵理もまた徐々に陽介に心を開くことで自分の人生を停滞させている記憶を克服しようとする。しかし、チェーンソー男が絵理の容姿や性格上のコンプレックスの象徴ならば闘って打ち倒すというのは理解できるのだが、肉親の事故死という悲しみは受け入れた上で折り合いをつけるべきタイプのものだろう。そのあたり心の傷の扱い方を取り違えている。


夜空に舞う雪の結晶やチェーンソーのエンジンなどのCGや、プールや遊園地、江戸時代の街並みといったところで繰り広げられるワイヤーアクションは非常に洗練されていて、陽介のヒーロー願望を見事に映像化している。でも、かっこよく死ぬよりかわいい女の子と一緒に海岸で夕日を眺めるというラストシーンのほうが、冴えない高校生の空想としてはより現実感があった。


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