こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

デイ・ウォッチ

otello2008-02-19

デイ・ウォッチ


ポイント ★★
DATE 07/12/25
THEATER 20世紀FOX
監督 ティムール・ベクマンベトフ
ナンバー 263
出演 コンスタンチン・ハベンスキー/マリア・ポロシナ/ウラミディール・メニショフ/ガリーナ・チュニーナ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


吸血鬼や狼男、魔法使いといった異種の者たちも、その肉体的な特性を除けば心は人間に近い。善悪どちらの側にもせこい者や乱暴な者、そして思慮深い者も温厚な者もいる。光に代表される善の勢力も闇に代表される悪の勢力もそれぞれに問題を抱えとりあえず休戦協定を結んでいるが、いつその箍が外れてもおかしくない。一般の人間が知らないうちに世界が崩壊する危険性、そんな危ういバランスの上に成り立っている現在を、原色と陰影を強調したシャープでヴィヴィドな色彩で表現する。


老女が襲撃され精気を吸い取られるという事件が起きる。犯人は「闇の異種」イゴール。彼を取り締まる立場のアントンは研修生のスヴェータと共にイゴールを追うが、取り逃がす。実はイゴールこそアントンの息子で、アントンはイゴールの犯罪をもみ消そうとする。


人通りの多い繁華街から蚊が飛び回る廃墟の異界に移動したり、真っ赤なRX-8でビルの壁面を疾走したり、大観覧車が転がって自動車を押しつぶしたりと、CGと実写を巧みに組み合わせたシーンはアイデア満載。緻密さよりも大胆さ、繊細さよりも力強さを前面に押し出した乱暴なほどの荒削りな映像は、視覚や聴覚ではなく潜在意識に直接訴えるような感覚だ。バーチャルとリアルが混在するような魔物たちの世界観が十分に描かれている。


しかし、アントンを取り巻くエピソードは屋上屋を重ねるような稚拙さ。父としての愛と恋人への思いに揺れ動くだけでなく、悪の見張り人でありながら不正をなす。その苦悩がまったく描かれておらず、ただもたついているだけにしか見えない。「運命のチョーク」というキーとなる小道具も、それを手にすることで力を得る代わりに何らかの犠牲を払わなければならないというような交換条件もなく、ただ物語を都合よく展開させるために登場するだけ。きちんとした構成を考えた上で映画作りをすれば、ハリウッドにはない斬新な魅力のある作品に仕上がったはずだ。あと、英語の字幕が揺れ動くのも見苦しかった。


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