こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

トゥヤーの結婚

otello2008-02-29

トゥヤーの結婚


ポイント ★★★
DATE 08/2/26
THEATER BUNKAMURA
監督 ワン・チュアンアン
ナンバー 48
出演 ユー・ナン/バータル/センゲー/
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


内モンゴルの見渡す限りの乾いた大地とそびえる山脈、いっこうに上向かない苦しい暮らし。そんな中、障害者の夫と2人の子供の生活を支えるヒロインの顔は日に焼け、衣服もほころびが目立つ。ただ、家族の幸せを願うがゆえに気丈に振る舞い、求婚してくる男たちに条件をつける。女としての幸福より夫と子供のために生きようとする。その強情なまでに凛とした姿は、男勝りに厳しい自然を相手に日々闘ってきた矜持だ。映画は、彼女の一途な思いと、その一途さゆえに夫を傷つけてしまうという葛藤を軸に、ふと垣間見せる女らしい感情が発露する一瞬を見逃さない。


トゥヤーは、足の怪我で動けなくなった夫・バータルの替わりに水汲みから羊の放牧、家事をこなし家を支えている。しかし、生活苦から裕福な男と再婚する決心する。その条件はバータルも同居させること。トゥヤーの元に石油成金の男が現れる。


トゥヤーは家族を守りたいという思いが強すぎて、バータルの気持に気付かない。いくら働けないからといっても、自分のために妻が望まぬ再婚をするというのは屈辱以外のなにものでもない。己のふがいなさに手首を切るが死に切れず、入院費でまた迷惑をかけるという悪循環。それでも、トゥヤーは責任感からか、結婚相手に妥協はしない。トゥヤーのそんな強さの陰にある脆さを見抜いている、センゲーという隣人の存在が物語を彩る。


やがてセンゲーは、トゥヤーが水汲みをしなくて住むように井戸を掘り始める。センゲーは口先ばかりの男だがトゥヤー一家の事情はすべて知っていて、彼女を思う気持は本物だ。トゥヤーは、本当に愛してくれるのはセンゲーだけと知ったとき、財産がほとんどない彼と結婚する。センゲーが夫では暮らし向きが楽になることはないが、なんとかまともな暮らしはできるに違いない。そんな時、長男が「親父が2人いて何が悪い」と喧嘩を始め、トゥヤーが初めて涙を流す。それは、必死で頑張っているのに、難問山積の人生にうんざりしたからなのだろう、気を張ってきたトゥヤーが見せた人間らしい心でもあった。


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