こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

4ヶ月、3週と2日

otello2008-03-10

4ヶ月、3週と2日


ポイント ★★★*
DATE 08/3/7
THEATER 銀座テアトルシネマ
監督 クリスティアン・ムンジウ
ナンバー 57
出演 アナマリア・マリンカ/ローラ・ヴァシリウ/ヴラド・イヴァノフ/ルミニツァ・ゲオルジウ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


何もかもいい加減で甘ったれた友人のおかげで、どんどんドツボにはまっていくヒロイン。責任感が強く面倒見がよい性格のせいで、あらゆるミスの尻拭いをさせられる。苛立ちが募り、疲労がたまり、恐怖を感じても、ぐっと抑えてこらえる彼女の気持ちは爆発寸前なのに、それでもやっぱり我慢してしまう健気さ。あまりにも続く貧乏くじの連続に「明日はきっといいことがあるよ」と思わず彼女に声をかけたくなる。


ルーマニアの大学生・オティリアはルームメイト・ガビツァの代わりにホテルを手配し怪しげな男と面会する。ホテルの一室に入った3人は仕切りの悪さと料金で揉め始め、仕方なくオティリアは男に体を提供する。


指定したホテルは予約はされておらず、男からは信頼できないと責められる。さらにカネも足りず、後始末までさせられる。本来、すべてはガビツァがしなければならないことなのに、それらのお鉢はすべてオティリアに回ってくる。そんな、運の悪い女の特別な一日という題材を、じっくりと腰をすえたカメラは長回しの会話で登場人物の感情をリアルに抉り出す。また、オティリアが胎児を抱えて夜の街を徘徊するシーンは、ハンディカメラで彼女の焦りと恐れを繊細に再現する。


舞台はまだ中絶が禁じられていた'87年、堕胎はヤミ医者による非合法行為。だからこそ細心の注意が必要なのに、恋人はもちろん代償行為にも当然避妊はない。ガビツァの手術を目の当たりにしてその危険が身にしみているのに、明日はわが身という実感。最後に、オリティアが疲れ果ててホテルに戻ると、ガビツァはのんきにレストランで食事を待っている。まったく危機感のないガビツァに向かってオリティアは怒鳴り散らしたい心境だったろうが、言葉を呑み込む。ふたりの間に流れる濃密な沈黙がオリティアの感情を饒舌に物語る。21世紀に生きるものにはこの後彼らには自由が訪れることを知っているが、ラストシーンでオリティアがふと視線をはずすのは、「今は思い出だけど、大変な時代だったのよ」という現代の視点だ。これは蛇足だった。


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