こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

スルース

otello2008-03-13

スルース SLEUTH


ポイント ★★
DATE 07/12/4
THEATER シネスイッチ銀座
監督 ケネス・ブラナ
ナンバー 247
出演 マイケル・ケイン/ジュード・ロウ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


騙しているのか、騙されているのか。命がけで真剣に取り組むからゲームは面白くなる。妻を寝取られた男と寝取った男、屋敷の中という限定された空間に2人の緊張の糸が張り詰める。男たちの動機は嫉妬なのか怒りなのか。緻密に練り上げられた会話が伏線となり、複雑に絡み合って相互理解に達した挙句、愛にまで言及する。監視カメラの映像や鏡を効果的に使い照明で登場人物の心理を表現するという演出は、ケネス・ブラナの旺盛な実験的精神が満載。ただ、銃で脅されて初めて人間が本性をむき出しにするという陳腐さから抜け切れていない。


推理作家のワイクに呼び出された俳優のマイロは、ワイクから彼の妻の高価な宝石を盗むことを持ちかけられる。実はマイロこそワイクの妻の不倫相手だった。ワイクはマイロを手玉に取り、徐々に追い詰めていく。


圧倒的に立場の強いものが弱い者を弄ぶ。完全に主導権を握り言いなりにさせる気分はとてもよいだろう。ワイクがじわじわとマイロを追い詰めていく過程は、妻を奪われた怒りに始まりさらにマイロの若さに対する嫉妬に変わっていく。もはや年老いて男としての魅力が薄くなっているワイク、二枚目でいかにも女にモテそうなマイロ。社会的地位はワイクのほうが上だが、外見ではマイロにはかなわない。この2人の葛藤を通して、若く美しい肉体への憧れが捻じ曲がった形で表出する。


後半、マイロ殺しの容疑でワイクは刑事から尋問を受ける。権力を傘に来て高圧的な態度でワイクをいたぶる刑事。まったく逆の立場におかれたワイクはただおろおろするばかりだ。自分が書く小説の世界ではすべてをコントロールできるのに、現実はまったく逆。そのギャップにワイク自身が驚きうろたえる場面に、人間の心の弱さが凝縮されている。しかし、屈辱を与えることが相手を知る効果的な方法というが、それを知った先に死という結末が待っているのには興ざめした。


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