ノーカントリー NO COUNTRY FOR OLD MEN
ポイント ★★★★
DATE 08/1/18
THEATER SG
監督 ジョエル・コーエン/イーサン・コーエン
ナンバー 14
出演 トミー・リー・ジョーンズ/ハビエル・バルデム/ジョシュ・ブローリン/ウディ・ハレルソン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
押し殺した足音、ドアのすき間から差し込む光、壁の向こうに漂う気配。息詰まるような緊張感の中で忍び寄ってくる死の影が生々しい感触となってスクリーンから迫ってくる。狙った標的を仕留めることだけをアイデンティティとする感情を持たない殺し屋、彼の無表情と絶望を湛えたような瞳が巨大な存在感となって圧倒する。もはや人智を超越し、自らのルールを忠実に守る死神。すべてを見通し、確実に追い詰める無駄のなさは運命をつかさどる者にふさわしい。この、「命を吸い取る殺人マシーン」というキャラクターは、ハビエル・バルデムよって見事に具象化された。
ギャング同士の抗争のどさくさにまぎれて200万ドルを手に入れたモスは、シガーという殺し屋に追われる。一方、事件を知ったベル保安官もモスを保護すべく後を追う。激しい銃撃戦の末にシガーを一度は撃退するが、モスも重傷を負いメキシコに逃げる。
人命をなんとも思わず、目的のためなら無関係な者も躊躇なく殺す。シガーが使う圧縮空気という武器はクリーンかつ強力で、鍵穴を壊すだけでなく人間の頭も吹き飛ばす。また、彼は銃弾を受けても腕を骨折してもまるで痛みを感じていないかのようにうめき声ひとつ出さない。その姿は殺人をプログラムされたターミネーターのように冷徹で一途だ。
コイントスに象徴されるように、人生もまた二者択一の連続。カネを奪うという道を選んだ以上、モスはその行為に責任を持たなければならない。そしてシガーという死の遣いからは何とか逃げられるが、別のところでつまずくのだ。モスが最初に見たたくさんの死体と同じ運命をたどるのも、彼の選択の結果。他人の死によってもたらされた不当な利益は結局自分の命であがなわなければならない。そんな因果応報を研ぎ澄まされた映像でスタイリッシュに見せる技術はより洗練され、この作品はコーエン兄弟の新境地となった。