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映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

非現実の王国で

otello2008-03-28

非現実の王国で IN THE REALMS OF THE UNREAL


ポイント ★★★
DATE 07/12/18
THEATER 映画美学校
監督 ジェシカ・ユー
ナンバー 258
出演 //
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


喜び、悲しみ、怒り。戦争と平和をイエローを基調にしたポップな色使いで描く独特の作風。この作者にはもはや現実と空想の区別に意味はなく、リアルな世界が彼にとっては仮の姿で、自ら紡ぎだす物語の世界が本当の自分。神を愛し祈りを捧げる信心深い一方で、絵本と小説の中では登場人物を自由に操る神として君臨する。それは思い通りにならなかった実人生の裏返し。生前、誰にも評価されなかったヘンリー・ダーガーという孤高のアーティストの生涯を通じて、芸術とは、魂の自由とは何かを問いかける。


1973年、シカゴに住む1人の老人がひっそりと息を引き取る。清掃夫として働きながら、教会のミサには熱心に通っていたこのダーガーという男は、親類も友人もなく40年にもわたって孤独な生活を送っていた。しかし、彼のアパートには15000ページにも及ぶ「非現実の王国で」という小説と、それをモチーフにして描かれた膨大な絵が残されていた。


幼いころに施設にあずけられ、他人とのコミュニケーションをまともに取れなくなったダーガーは、高い知能にも関わらず感情をコントロールできないゆえに知的障害児施設に移される。成長後は清掃人として働き始めるが、誰とも心を通わせない。特に女性とはまったく縁がなかったはず。彼が描く女性は例外なく少女であるにもかかわらず、裸の絵には男性器がついている。生身の女性の裸体に触れたことも見たこともなかったのだろう。絵の中の登場人物はすべて思い通りに動かすことができるのに、女性器の知識はなく、それを確かめる術も知らないのだ。


自宅アパートの部屋に築き上げた「非現実の王国」。その楽園で自分の作り上げたヴィヴィアン・ガールズに囲まれて暮らすダーガー。外側の人間世界は彼にとって苦悩以外の何物でもなかったのだろう。つらい現実と楽しい空想、ダーガーの頭の中では空想が圧倒的に現実を押さえつけ、他人から見れば怖ろしく奇妙で特異な人生も、王国の神だったダーガーは非常に幸せだったことを想像させる。


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